犬が自然環境に及ぼす影響を考える
緑多い山の中や広々としたビーチをオフリードで嬉しそうに走り回る愛犬の姿は、多くの人にとって心和ませられるものでしょう。犬が姿勢を低くして野鳥の群れに近づいていき、パッと飛び立つ鳥に驚いたりふざけたりする姿もまた微笑ましく感じる人が多いかと思います。
けれど、少し視点を変えて考えてみてください。犬は遊びに来た場所でふざけているだけでも、鳥たちにとっては普段住んでいる場所を大きな生き物に脅かされて命がけで逃げているという状態です。
オーストラリアのディーキン大学の研究者は、長年に渡って飼い犬が野鳥の生態に与える影響を調査し、その結果を報告しています。
「私の犬は野生動物を脅かす」と全ての飼い主が認識する
犬は私たち人間にとってあまりにも身近な動物であるため、多くの飼い主は自分の犬が野生動物にとって脅威であるという認識を持っていません。
また「犬は自然環境を脅かす」ということを知っている飼い主でも、それは他の人の犬のことで自分の犬が問題であると思っていない人も少なくありません。
しかし、全ての飼い主は、自分の犬が自然の中では異質な存在で、野生動物やその生息地を乱す存在になるのだと認識しておく必要があります。たとえ、小さなチワワやヨーキーであっても同じです。
この研究者の調査によると、オーストラリア沿岸の野鳥が巣を作るビーチを犬立入禁止にすると雛の生存率が12%から40%に上昇したそうです。
これは、オフリードの犬が鳥のコロニーに近づいたり、攻撃をしたりすると、コロニーにいる鳥のグループ全体が安全のために巣を放棄することがあるからです。その際、卵と雛たちは放置されてしまいます。
鳥は生息している場所で危険に対する認識が高まると、巣だけでなくその地を離れることもあります。シドニー北部では犬が散歩する森の小道では、犬立入禁止のエリアに比べて鳥の生物多様性が35%低かったそうです。
イギリスの研究でも、オフリードの犬が入り込んだ湿原では鳥の雛の死亡率が23%増加することが分かっています。卵を温めているときに犬が近くを通ると親鳥はそのたびに飛び立ちます。そのため親鳥は消耗し、雛や卵は危険にさらされることになります。
もちろん、自然の中にも鳥の天敵となる動物はいるのですが、他の野生動物は決まった習性に沿って生きており、鳥にとっては予測できる危険です。しかし、犬は鳥にとって予測できない動きで現れるため鳥を不安にさせます。
問題は犬ではなくて人間
このように、犬が自然環境の中に入ることで、野鳥たちは脅威を感じて行動や生態に影響が及びます。
しかし、これらは犬の問題ではなくて飼い主である人間の問題です。犬は本能に従って行動しているだけで、犬をオフリードにして放つのは飼い主です。
広々とした自然環境の中で犬にリードをつけるようにという規制に対して、多くの飼い主が「犬には自由運動が必要」という理由で反対しているそうです。
オーストラリアでの調査によると、犬の飼い主の63%がリードが必要な場所でもルールに従わずに犬をオフリードにしているそうです。
しかし、別の研究によると、飼い主は自分の犬が野生生物や他の人にとって脅威であると知っていればリード規制に従う傾向が強いことも分かっています。
そのため、研究者は地道な啓蒙教育活動に希望を見いだしていると述べています。
まとめ
飼い犬がオフリードで自然環境の中に入ることで、捕食をしなくても野鳥の生態に悪影響があるという調査結果をご紹介しました。
犬は人間と同様に、自然界の食物連鎖に含まれない生き物です。自然の中では異質な存在であるということを忘れないようにしなくてはなりません。
ここでは野鳥への影響をご紹介しましたが、犬の排泄物も自然の中では分解されないことが多く、分解されたとしても土中の微生物叢のバランスを崩してしまいます。犬にリードをつける、排泄物を片付けるという基本的なルールは単にマナーというだけではない大きな意味があります。
リードには犬の命を守るという役割だけでなく、他の生き物の命を守るという意味があります。犬と一緒に自然の中に出かけるときにはぜひ心に留めておいてください。
《参考URL》
https://www.audubon.org/news/why-leashing-dogs-easy-way-protect-birds-and-their-chicks
http://dro.deakin.edu.au/view/DU:30113059?_ga=2.160577464.427964788.1598131070-838257147.1598131070