2011年に発見されたほぼ完全な氷河期の犬の遺体
近年、地球温暖化の影響でシベリアの永久凍土が解けてしまい、そこに1万年以上も埋まっていた古代の生き物の体が発見される例が増えています。
決して歓迎できることではないのですが、発見された生き物の体からは、かつて解らなかった様々なことが判明しているのもまた事実です。
2011年、シベリアのトゥマトという場所の遺跡から、ロシアの研究者たちが犬またはオオカミと思われる毛皮で覆われた動物を発掘しました。ほぼ完全な形で保存されていたその動物は、まだ子犬で、胃の中には毛で覆われた組織片が入っていました。
その組織片は黄色っぽい毛皮の色からホラアナライオンと呼ばれる、大型ネコ科動物のものだと考えられていました。
DNA解析が明らかにした井の中の動物の正体
しかし、2020年スウェーデンの自然史博物館の生物情報工学と進化遺伝学の専門家による調査の結果、子犬の胃の中の動物はライオンではなくサイであったことが明らかになりました。
組織片のDNA解析を行い、その結果とデータベースにある他の古代哺乳動物のミトコンドリアDNAを照合したところ、ケブカサイとほぼ完全に一致したのだそうです。
ケブカサイはマンモスと並んで氷河時代を代表する動物として知られています。現在アフリカにいるシロサイとほぼ同じ大きさで、身体中が毛で覆われていました。このケブカサイの組織を放射性炭素年代測定法で調査した結果、約1万4400年前のものであると判断されました。
サイの組織片から浮かび上がる謎とドラマ
このケブカサイという生き物は、1万4000年前に絶滅したことが知られています。つまりこの子犬はケブカサイの最後の生き残りの一頭を食べたと考えられますが、犬のサイズとサイのサイズを考えると子犬が直接このサイを襲って食べた可能性は低いと研究者は述べています。
研究者たちはまた、この組織片がほとんど消化されていないため、サイを食べた直後にこの犬が死亡したことにも注目しています。子犬が死んだサイを発見したのか、または子犬の仲間の成犬がサイを狩ったのかもしれません。
そして、この子犬は狩られたサイの仲間の反撃に遭って命を落としたのかもしれません。完全な姿で発見された子犬は、調べるほどに古代の生き物たちのドラマを伝えてくれるようです。
また、発見されたケブカサイの核ゲノムの分析は近親交配の増加や遺伝的多様性の現象を示しておらず、このサイの絶滅は急速な温暖化によって引き起こされた可能性があるそうです。
気候変動による種の絶滅の歴史という、現代に太くつながるような問題が犬のお腹の中から発見されるというのは実に興味深いことです。
まとめ
10年前に発見された1万4千年前の犬の胃の内容物、そのDNA解析の結果から思いもよらない絶滅動物の情報が明らかになったという調査報告をご紹介しました。
現代の犬が何らかの形で偶然保存されるようなことになり、何千年何万年という未来に発見されたら、未来の人は犬のお腹に残っているドッグフードや、体内に残っているマイクロチップを見てどんな感想を持つのだろうと、壮大な想像をしてみたくなります。
《参考URL》
https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(20)31071-X