ドッグレスキュー「保護犬!柴犬ゴン太を救え」

ドッグレスキュー「保護犬!柴犬ゴン太を救え」

ドッグレスキューと言っても、獣医さんの様に犬の病気や怪我を救いに行くんじゃありません。僕の仕事はワンコや飼い主さんの「心のお悩み」を救いに行くことなんです。さて、今回ご紹介するのは…

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立った柴犬

はじめに

僕は現在、訪問型ドッグトレーナー兼ドッグリハビリストをしています。
それは、犬のしつけはもちろんのこと、犬自身のサイコロジーリハビリテーション(※)や、飼い主さんに犬の本質や知識、犬との関わり方をレクチャーするお仕事です。

愛犬家の皆さんのお悩みにもそれぞれ様々なタイプがあり、緊急を要するものからそうでないものまで、様々なご依頼を賜ります。

その中から特に印象に残ったエピソードをご紹介します。
すこしでもあなたの、幸せなドッグライフのヒントになりますように。

※:サイコロジーリハビリテーション:犬が持つ本来の穏やかで安定した精神状態を取り戻す為のリハビリテーションのこと

舌を出した柴犬

人間不信のゴン太!

ある日、友人とスタバで談笑していた時のことです。

「あのさぁわんぱぱ…」
「ん?何?」
「知り合いの犬を引き取ろうと思うんだぁ…」
「ほぉ♪いいやん♪犬種は?」
「柴犬…。それがさぁ。その知り合いがもう要らないって言うんだよ。誰か貰ってくれる人居ないかって…」
「えっ?なんで?成犬?」
「まだ8ヵ月だって」
「えっ、パピーやん!」
豆柴ぐらいにしか大きくならないと思ってたらしくて、大きくなり過ぎたし、言う事聞かないし噛むし。とにかく手に負えないらしいんだ」
「それは酷いなぁ」
「でさ、今はベランダでネグレクト状態らしいんだよ。聞いてて辛くてさぁ」
「なるほど。それで保護しようと思ったんだ。でもお前の家チワワ3匹居るでしょ。どうするの?柴チャンは外飼いするの?」
「うん。玄関の前に犬舎を用意しようかと…」
「そか。俺にできる事があれば言ってよね。その子を迎えに行く時一緒に行こうか?」
「ありがとう♪なんかあった時は頼むな。とりあえず俺一人で迎えに行って頑張ってみるわ」
「分かった。その時は任せろ!」

その友人とは僕が昔保護犬シェルターにいた頃からの付き合いで、とにかく犬が大好きなヤツでした。なので直接そんな話を聞くと、いてもたってもいられないんでしょうね。
僕は友人の想いに感心させられ、心から力になりたいと思いました。

そして数日後、
「迎えに行ってきたよ♪」と連絡が入りました。
「どうよ?」と聞くと、
「ゴン太全然懐かないよ。可哀想に。人間を信用してないね」
「ほー♪名前はゴン太か♪威嚇や攻撃はしない?」
「それは今のところ無いね」
「気持ちは分かるけどとにかくゴン太を可哀想と思うなよ。憐れむのは絶対ダメだよ」
「了解!」

この時数日中にお呼びが掛かりそうだなと予感しました。
そして3日後の夕方、事務所で仕事をしていると電話が鳴りました。その友人からです。

「はいはい♪」
「わんぱぱ!ゴン太に噛まれたよ。来てくれないか?」
「分かった。今から行くよ。傷はどう?」
「うん。たいした傷じゃないけど。昨日辺りからエサを与える時、器を置こうとしたら唸り出してさぁ。食事中もヴルヴル唸りながらだし、終わって器を取ろうとするとガブリ!と来るようになった。後は体当りしてくるんだよ。結構ガツンと来るんでしゃがんでたら押されてちゃってさぁ」
「オッケー。大丈夫だよ。すぐ行く」

そりゃ人間不信ならそうなりますよね。ていうか何もかも誰も信じられないでしょうね。
(早くゴン太に安心を与えて精神的に助けてやらないと。)
すぐに事務所を飛び出しました。

水飲みの前の柴犬

   カウンセリングサマリー
症状

物に執着心が異常に強い。特にエサ。気に入らないと威嚇や攻撃をする。

原因
  • 飼育放棄(ネグレクト)
  • 社会化教育不足。
  • 群れの安心感や幸福感を知らない。(一匹狼の様な振舞い)
  • 犬の活動欲求不足による極度のストレス。
対策
  • 群れでの社会化教育をメインに人間の良いエネルギーを体感させる。
  • 飼い主さんの意識改革。
  • 正しい犬の知識、接し方をレクチャー。
  • サイコロジーリハビリテーションを施し脳をリラックスさせる。
  • 発散させ活動欲求を満たし犬の精神安定をはかる。

さぁレスキューです!…とその前に聞いてください。

笑顔の柴犬

続きを話す前に「保護犬」の事について少し触れておきたい事や、僕の想いをみなさんにお伝えしたいと思います。

ここ数年、動物愛護の意識が高まり、保護犬譲渡により犬を迎え入れる愛犬家の方々が急増している事を嬉しく思っています。

「ペットショップでは犬を買わないで!」という声もよく聞くようになりましたね。日本もペット後進国からの脱却し、欧米の様なペット先進国に近づきつつあるのかなと少し期待が持てます。

あの志村動物園でもベッキーさんが保護犬のコーナーをやられてましたね。まぁあのコーナーには僕個人的には「あー!そんな事したらあかん!」とか異論がありますが今回はグッと堪えます。
そのほかにも「保護犬を迎えたいのですが迎え方、飼い方を教えて下さい」というご依頼も増えています。個人的には凄く喜ばしく良い事だと思います。

保護犬達には僕も思い入れが強いのです。
何せ保護犬シェルターで保護犬達に、

「俺たち犬はこうなんだぜ!あんたらとは違うんだよ!憶えときな♪」

と、犬族のルールを散々叩き込まれ、その体験こそが、僕のトレーナーとしてリハビリストとしての基礎を確立させたルーツなのです。

保護犬の中には生まれたばかりのパピーからシニアまで幅広く存在します。
僕も以前、悪質パピーミルが破綻し、急遽レスキューに行くという経験もさせてもらいました。
総数50匹ぐらいのパピーからシニアまで、車に乗せて何度も往復しシェルターに連れ帰ったものです。

保護犬といえば、『捨てられた犬』、『飼育放棄された犬』、『虐待を受け挙句に捨てられた犬』、そして当時はまだ街中を野良犬が闊歩していた時代です。

多くの犬

そんな子を所長が拾ってくるので、小さなシェルターには常に25~50匹の犬が居ました。犬種も様々で、大型や中型が多かったのを覚えてます。まだペットブームが来る前だったかなぁ?後だったのかなぁ?小型犬は殆ど居ませんでしたけどね。

このシェルター時代に僕は『保護犬に対してこれだけはやってはいけない事』を学習しました。そしてこれは共通して、飼育されている犬全般に言える事なんですよ。

保護犬を絶対に特別扱いしない事!

わんぱぱとバーニーズ

よく保護犬を迎えられた愛犬家の方からお聞きするのが、

「この子は可哀想な生い立ちで辛い思いをして来ました。だからうちではそんな思いは絶対にさせません!」とか、

「この子は虐待されて愛情を知らないのでいっぱい愛情を注いであげようと思います!」など。

なんと温かくて愛に満ちたお考えだと感銘を受けます。
しかし…。
これはあくまで人間側の考えであって犬は違う認識をしてしまうのですねぇ。僕も最初はそうでした。

シェルターに新しい子が来る度に「お前も辛かったんだよな。可哀想に」という気持ちを前面に出して接していました。しかしなかなかその子達と打ち解けられない。

今思えば、それは何か腫れ物に触るような態度になっていたんだと思います。僕のそんな態度が原因だったのか、当の犬たちには体当たりされたり唸られたり、噛まれたり無視されたり…。懐かれているというより弄ばれているような、バカにされている感じですね。

それを見ていた所長が一言、
「そんなんじゃこいつらから信頼されねぇよ。嫌われるだけだよ。こいつらは余計な気遣いや、憐れんだり同情されるのが嫌いなんだよ。そんなんじゃお前にこの群れをまとめられねぇなぁ」
と言われました。

「じゃあどうすればいいんですかぁ?」と聞くと、
「いいか。犬は過去を後悔して生きてるんじゃないし、未来に不安を抱き生きてるんじゃない。今が楽しいならそれでいいんだよ。後は自分で感じろバカ!こいつらが教えてくれるよ!」
「はぁ…」
それ以来、より群れの観察に明け暮れました。

そしてある時、「よし!次からこうしてみよう!」と閃いたのです♪
「明日、新入りが来るのでそれで試してみるか…」と考えた、その当日に入ってきたのが柴犬の成犬でした。

上目遣いで僕の顔を睨みつけてきました。
(この子も人間不信なんだなぁ)
僕は犬の前で仁王立ちになり、
「お前が新入りか?今日からこの群れでしばらく暮らすんだ。仲間と仲良くしろよ
と毅然とした態度で迎えたのです。

その日から全犬に対し毅然とした態度で、それでいて穏やかに接するように変えていきました。
「内面は可哀想だと思うし、優しく接してあげたい!」と思っていても犬の前では出さないようにしていったのです。

すると良い結果はあまりにも早く表れ始めました。コマンドも入りだし、犬達が僕に注目しだしました。
散歩の時など20匹ほど連れて歩いていても僕の前を歩く犬は居なくなっていました。更に僕の出す指示を待つようになったのです。
リーダーだと認められた瞬間ですね。

そしてその時に悟りました。
この子達を憐れんでも、同情しても全く意味がない。深い愛情を持って付き合う事はもちろん大切だが、一匹一匹の犬の犬格を認めてあげて尊重し、過去がどうであれ何事も無かったかのように一匹の犬として受け入れること、犬らしく扱ってあげる事が犬のためには一番良いことなんだ』と。

この頃に、人間側のエネルギーがいかに犬に影響を与えるかも教えられたんですね。
もう一つ言うとすれば犬にトラウマはありません。これも人間側の考え方です。
一千匹以上の犬から僕が体を張って痛い思いをしながら学び教えられたことなんです。

人間の摂理を犬に押し付けることはとてもリスクが高いです。犬の摂理、犬の本質を知れば、お互いが信頼しあえる関係を築く事ができるのです。そうすれば犬族は我々人間を受け入れる素晴らしい寛容さを持っています。

そして何より、犬は争いを避け平和を好む生き物なのです。我々人間がとても敵わない、そして見習わなければならない部分なのかも知れませんねぇ。

さぁレスキューです!

振り返る柴犬

話を戻します。
到着すると玄関先にゴン太が犬舎の中から僕を凝視していました。吠える訳でもなくただジーッと観察しています。僕は呼び鈴を押す前に「よし!先に対話してみよう」と思い、犬舎の前に座り込みゴン太と無言の会話をしてみました。こんな感じでしょうか。

「君がゴン太か?」
「あんた誰?何しに来た?」
君と友達になりに来たんだよ。敵じゃないよ。でも君には服従しないけどね
「…。あんたは俺の気持ちが解るのか?」
「あぁ。解るとも♪ここの群れの奴らは君の仲間なんだろ?」
「さぁどうだかな。」

みたいなやり取りをしました。そして友人を呼び、
「今から餌を与えてみて♪与え方を見せてよ。俺ここで見てるから。大丈夫、何もないと思うよ」
「う、うん。分かった」
と家に戻り餌を持ってきました。

そして器を置こうとするとゴン太はすーっと近づいてきてスッとお座りしたのです。
「えっ?嘘!」友人がつぶやきます。
その後何事も無く食べ終えて、静かに犬舎に戻って行ったのです。
「え~!わんぱぱ!なんでなんで?何したの?」
「何もしてないよ。ただ話しただけだよ」
「…???」

そりゃ友人ははてなマークですよねぇ。

「よし!じゃあ後はゴン太に軽くリハビリ入れて帰るわ♪」
そしてゴン太と組んずほぐれつプロレス遊びをして発散させました。
後で友人がボソッと一言。
「訳分からん!」
ハイハイ後で説明するから~

僕が飼い主さんにお願いしたこと。

やさしい表情の柴犬

キョトンとした顔で僕を見つめる友人。

「ゴン太を迎えに行った時にどんな感じだった?車の中でゴン太に可哀想にとか声をかけたでしょ。ゴン太は勘違いしたんだね。負のエネルギーは良くないからね。でも幸いにもゴン太は犬の持つ本来の素直さは残ってたよ。陽気な性格もグッド♪ただ腫れ物に触る様な接し方は今後一切禁止!10年来の友のように気兼ね無く接してあげてよ。じゃないといつまで経っても人間不信からは抜け出せないよ。チワワも柴犬も同じ犬でしょ。」
「オッケー♪その方が俺も楽かな♪」
「でしょ♪要らぬ気遣いは逆効果だよ」

その日から友人は実践してくれました。
今も僕は定期的にゴン太に逢いに行っていますよ。今ではゴン太も僕の親友ですから♪

さいごに

近年はボランティア団体の方々の活躍もあり愛犬家の方々の保護犬に対する意識が益々向上してきていて本当に嬉しく思ってます。

先日の鬼怒川の災害でも、いち早く犬の救助に動いた団体もあり、僕は心より称賛したいと思いました。
僕も余裕ができれば以前の様に保護犬団体を立ち上げたいなぁと考えています。
これは僕個人の考えですがやはり供給する側が蛇口を締めない事には殺処分や保護犬は減らないと思うのです。
この業界は完全にビジネス化され、今や需要と供給のバランスがめちゃくちゃになってますからね。

犬は家電じゃない!』と叫びたいぐらいです。

しかし行政も変わり始め、熊本を先頭に年々殺処分ゼロの意識が浸透し、日本の動物愛護法も更に厳しくなる様相なので、せめて僕が生きている間に少しでも良い方向に向いてくれると良いのですが。
それまで僕も殺処分ゼロを目指し全力で頑張ります!

でもですね。本音をいうと僕も犬を救うとかなんとか能書きたれてますけど、実は本当に救ってもらっているのは僕の方なんですよねぇ。寛容な犬族に心から感謝ですよ。

いつも本当にありがとうございます!てね♪

元気そうな柴犬

わんぱぱ《今日の格言》
犬は今を生きている!

どんな過去があろうとも保護犬は可哀想ではありません!過去を引きずったり未来を不安がるのは人間側ですよ。

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