犬の脳の働きをMRIで観察する
医療検査に使われるMRIは磁気の力を利用して私たちの脳や脊髄など体内の様子を撮影する装置です。
このMRIを利用して、犬の脳の働きを理解するための研究が数多く行われています。脳の働きを観察するには、麻酔で意識がない状態にすると意味がないため、報酬ベースのトレーニング方法で装置の中で静止できるよう訓練された犬たちが研究に参加しています。
この度ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学の神経科学の研究者チームによって、犬が様々な違うトーンでよく知っている言葉を聞いた時、知らない言葉を聞いた時に脳がどのように反応するかがMRIで撮影され、その結果が発表されました。
言葉のトーンと意味に対する脳の反応を調べる実験
この研究のための実験には一般から募集した家庭犬が参加しました。犬種はボーダーコリー6匹、ゴールデンレトリーバー 5匹、ジャーマンシェパード1匹です。犬たちはMRI装置の中で自主的に静かに伏せるよう訓練を受けました。
実験では、MRI装置の中に伏せの姿勢をとっている犬にトレーナーが話しかけます。話しかける内容は「賢いね」「よくやった」など犬がよく知っている言葉を、最初にテンションの高い感じの褒め称えるトーンで、次に落ち着いたニュートラルなトーンで繰り返します。
さらに「あたかも」「そのような」など、犬にとっては未知で特に意味のない単語を、褒め称えるようなトーンと落ち着いたトーンの両方で繰り返します。この時の脳の反応が全てMRIでスキャンされました。
犬は言葉を脳の2つの階層で処理している
私たち人間の脳は誰かが発した言葉を聞くと、まず皮質下の聴覚領域で言葉のトーン=そこに込められた感情に反応します。次に皮質が反応して後天的に学習した言葉の意味を理解します。皮質下領域は脳の領域の中では、より原始的な部分で、皮質は新しく進化した部分です。
犬の脳でも人間の脳での反応と同じことが起こっていました。まず皮質下部で感情的なトーンを処理し、脳のより高いレベルの領域で語彙の情報を処理するという2つの階層を使っていることが分かったそうです。
犬は同じ感情のトーンを何度も繰り返し聞いていくうちに、言葉が変わっても皮質下領域の活動レベルは減少して行きました。これは言葉の感情のトーンが皮質下領域で処理されていることを示します。
同様に犬がよく知っている単語を繰り返し聞いていくうちに、脳の皮質の活動レベルは低下して行きましたが、犬にとって未知の単語を聞いているときは活動が低下しませんでした。これは皮質は単語の意味を処理する領域であることを示しています。
つまり犬にとっては、人間が話しかける言葉そのものも、その言葉を話す時の感情のトーンもどちらも重要であるということです。
また人間は声の感情的な手がかりを理解することから発話を発達させて、言語を進化させて来たと考えられ、同じ反応をする犬の脳はその段階を理解するのに役立つと考えられます。
まとめ
MRIを使った実験で、犬は人間に話しかけられた時に、まず脳の皮質下領域で言葉に込められた感情を処理し、次に皮質で言葉の意味を処理しているという結果が分かったことをご紹介しました。
異なる種である人間の言葉から感情の手がかりをつかむことができるのは、人間と共に進化してきた犬ならではと言えるでしょう。
犬と暮らしている人なら、人間が発した言葉のトーンの違いを犬がしっかりと理解していると当たり前のように感じていると思います。そのことが科学的に証明されたというのは嬉しいことですね。
《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41598-020-68821-6