イギリスでの「生後8週齢規制」
子犬や子猫の生体販売に関して「生後8週間は母犬や兄弟犬と一緒に過ごす必要があるため、8週齢未満での流通や販売はしてはならない」という『生後8週齢規制』は多くの国で動物福祉や動物愛護に関する法律を決める際の焦点になっています。
日本では現在は生後7週齢での流通販売が許可されていますが、2021年からは8週例規制が適用されます。イギリスでは現在すでに8週齢に満たない子犬の販売は法律で規制されています。また子犬を購入する際には子犬と母犬が一緒にいるところを見ておくことが推奨されるガイダンスとして法律に記載されています。
しかしこの度、イギリスの動物保護団体ドッグズ・トラスト(イギリス最大の犬の保護団体、保護活動の他、教育や研究活動も多く手がけている)による調査から、家庭に迎えられた子犬の約4分の1が8週齢未満であったことが明らかになりました。
調査から分かった8週齢にまつわる詳細とは
ドッグズ・トラストではイギリスの犬の健康、行動、福祉に関する長期的な研究を行っています。今回の調査もこの研究の一環として2016年5月から2019年2月の間にアンケートによって収集されたデータが利用されました。
統計の対象となったのは1844匹分のデータでした。アンケート結果からちょうど4分の1にあたる461匹が8週齢未満で家庭に迎えられていました。
また全体の約8%に当たる149匹は母犬を見ることなく購入されていました。8週齢未満かつ母犬を見ずに購入された子犬は約1.5%の30匹でした。8週齢未満で子犬を迎えた飼い主にはいくつかの特徴がありました。
- 8週齢以前にブリーダーを訪問したことがあり、我慢できずに連れ帰った
- ハーディング、番犬など作業犬として使用するつもりで子犬を購入した
- 子犬が雑種
- 世帯収入が上がるにつれて、8週齢未満の犬を購入する率は低下した
雑種の子犬は認可されたブリーダーではないバックヤードブリーダーやアクシデントで生まれてしまった場合が多く、認可ブリーダーに適用される法律の規制の対象ではないそうです。
しかし規制の対象ではなくても、8週齢未満で母犬から引き離すことは犬の福祉や行動学の点からは望ましくありません。
8週齢未満の子犬を取得するのはどのような人なのかを分析することで、教育活動やキャンペーンを行う際のターゲット層が明確になることが期待されています。
なぜ8週齢未満での子犬の販売が問題なのか
ドッグズ・トラストをはじめとする世界中の多くの動物保護団体、獣医師協会などが生後8週間は母犬や兄弟犬と過ごすことを強く推奨しています。
犬の8週齢は人間で言えば1歳未満の赤ちゃんに当たります。(以前は3歳程度と言われていたが、新しい年齢の換算方法ではもっと幼いことが判りました。)
犬では8週齢は離乳が完了する平均的な時期でもあります。無理やりではなく自然な形で離乳を終えることは子犬の身体的、精神的な健康のために大切です。
8週齢以前の、早すぎる母犬からの分離は初期の脳の発達を損ない、外からの刺激への適応、社会的なスキルの発達に悪影響を及ぼします。このことは成長したのちに、恐怖や不安関連の行動を示す可能性を高め、飼い主が問題だと認識する行動につながりやすくなります。
犬の問題行動は犬自身の福祉を損なうのはもちろんのこと、社会にとっても安全を脅かす可能性があります。また問題行動は犬の飼育放棄にもつながり、これも社会全体の問題となります。
8週齢規制は単純に「母犬との早すぎる分離はかわいそうだ」というだけでなく、犬が成長した後の様々な問題につながっている事を、子犬を迎えようとしている人は知っておかなくてはなりません。
まとめ
イギリスの動物保護団体によるリサーチから分かった、4分の1の子犬が8週齢よりも早い段階で家庭に迎えられていたという結果をご紹介しました。
日本に比べて、動物に関する規制が厳しいイメージがあるイギリスでの数字なので、驚かれた方もいるかもしれません。
上に挙げた8週齢未満で子犬を販売することの問題点を踏まえた上で、現在の日本では7週齢の子犬が店頭に並んでいる事を多くの方に考えていただきたいと思います。
改正された動物愛護法によって2021年からは8週齢規制が適用されますが、このイギリスの例から法規制だけで問題が解決するのではないということも分かります。
ペットショップの店頭にいる子犬や子猫を見て「かわいい!」と飛びつくのではなく、その背景について考える人が増えていけば、動物にとっても人間にとっても住みやすい社会を作る助けになるのではないでしょうか。
《参考URL》
https://veterinaryrecord.bmj.com/content/187/3/112