犬の認知の背後にはどんな遺伝子がある?
皆さんもご存知の通り、犬は様々な形やサイズのバリエーションを持つ生き物です。その姿形の違いは、狩猟や牧畜など人間の仕事を手伝うために適したものを作るため何千年もの間の選択繁殖によって作られてきました。
ゲノム配列決定がより身近になったことで、犬の身体的な特徴の背後にある遺伝子の詳細も明らかになって来ています。
一方、学習、推測、コミュニケーション、記憶、問題解決といった犬の認知能力に関わる遺伝子については、まだあまり多くのことが判っていません。
アメリカのアリゾナ大学イヌ認知研究所の研究チームは、犬の認知能力が犬種によってどのくらいのばらつきがあるかを定量化し、それらの違いがどのくらい遺伝的根拠のあるものかを調査した研究を発表しました。
クラウドソーシングを利用した研究データ収集
以前の研究では、ある犬種の認知能力を調べるためには犬が実際に実験に参加していたため数に制約がありどうしても小さいサンプルサイズになっていました。
しかしこの研究では、犬の飼い主が自分の愛犬を自宅でテストしてその結果をインターネットで報告するDognition.comが利用されました。
これはクラウドソーシングと呼ばれる不特定多数の人の寄与を募りデータやアイデア、サービスなどを取得する方法を用いたものです。
Dognition.comでは科学者が研究室で犬の認知テストを行う方法を一般の飼い主向けの簡略化したテストを開発しました。テストの精度についても確認済みです。
テスト内容は犬の前にトリーツを置いて「待て」の指示を出し犬が待つ時間を測定するものや、飼い主の指さしジェスチャーを理解するかどうか、伏せたプラスチックカップの中に隠したトリーツの位置を記憶しているかどうかなどがあります。
今回の研究ではこのDognition.comから36犬種1,508匹分のデータセットが作成されました。遺伝子情報については2017年の研究で公開された情報が使用されました。
犬の認知機能と遺伝子の影響
研究チームは犬の認知テストのスコアと遺伝情報との関連を分析しました。犬の前にトリーツを置いて待つように指示するテストでは犬の抑制機能がテストされているのですが、この抑制機能の能力は約70%が遺伝的または遺伝子に起因するということが分かりました。
指さしジェスチャーの理解によってテストされたコミュニケーション能力は約50%が遺伝的であり、カップの下に隠されたトリーツの場所を記憶したり推測したりする能力は約20%が遺伝的でした。
ただし、これらの特性は遺伝的要素だけでなく育った環境など環境的および経験的な影響も大きいことも考慮に入れる必要があります。
また犬の認知機能には、その特性に寄与する多くの遺伝子があり、それぞれの効果は小さいということも分かりました。これは犬の外見を決める形態学的特徴とは対照的です。犬の体のサイズの約半分は単一の遺伝子によるものだそうです。
この研究では認知テストのデータと遺伝子情報が別の犬のものであるという弱点がありました。遺伝子情報は犬種ごとの平均が適用されています。将来的には研究者は認知テストを終えた犬から遺伝データを収集して、さらに研究を進めることを計画しているそうです。
まとめ
犬の認知能力は遺伝的要素によって決まる部分もあるという研究結果をご紹介しました。しかし犬の毛色や体のサイズと言った身体的特徴と違って、認知能力は遺伝的要素だけでなく経験や環境にも影響されます。この点は人間と同じですね。
犬の認知能力についての情報が明らかになると、トレーニングや日常生活の過ごし方についてもより良い方法がわかっていく可能性があります。今後の更なる研究に期待したいですね。
《参考URL》
https://www.smithsonianmag.com/science-nature/how-much-dogs-intelligence-hereditary-180975448/