犬は何歳で避妊・去勢手術をするのが良いか?犬種別のガイドライン【研究結果】

犬は何歳で避妊・去勢手術をするのが良いか?犬種別のガイドライン【研究結果】

犬の避妊・去勢手術について、いくつかの病気のリスクの面から見て何歳くらいで手術を受けるのが良いかというガイドラインが、アメリカのある大学での調査の結果から発表されました。避妊・去勢手術をするのに良い時期は、犬種やサイズによって違うという興味深い内容をご紹介します。

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記事の監修

東京農工大学農学部獣医学科卒業。その後、動物病院にて勤務。動物に囲まれて暮らしたい、という想いから獣医師になり、その想い通りに現在まで、5頭の犬、7匹の猫、10匹のフェレットの他、ハムスター、カメ、デグー、水生動物たちと暮らしてきました。動物を正しく飼って、動物も人もハッピーになるための力になりたいと思っています。そのために、病気になる前や問題が起こる前に出来ることとして、犬の遺伝学、行動学、シェルターメディスンに特に興味を持って勉強しています。

犬の避妊・去勢手術と特定の病気のリスク

獣医師とエリカラをつけたゴールデンレトリーバー

愛犬に避妊手術や去勢手術を受けさせるべきか、受けるとすればいつが良いのか、悩ましく思っている飼い主さんは多いかと思います。

避妊・去勢手術を受けることで予防できる病気がある一方で、近年の研究ではいくつかの犬種では避妊・去勢手術が特定の病気のリスクを高めるという研究も発表されています。

アメリカのカリフォルニア大学デービス校獣医学部では、以前から避妊・去勢手術と特定の病気との関連についての研究がなされてきました。そしてこの度、35犬種について避妊・去勢手術の実施の有無と実施時期、そして特定の病気の発生率との関連が調査され、その結果から犬種別に推奨される手術の時期が発表されました。

避妊・去勢手術によって発症のリスクが高くなる病気として、過去の研究から5種類の腫瘍(リンパ腫/リンパ肉腫、血管肉腫、肥満細胞種、骨肉腫)と3種類の関節疾患(股関節形成不全、前十字靭帯断裂/損傷、肘関節形成不全)が挙げられています。今回の研究では、これらの病気に加え、避妊手術との関連が指摘されているメス犬での尿失禁、従来避妊手術を行うことでリスクが下がると言われている乳腺腫瘍などについて、そしてダックスとコーギーでは椎間板疾患についても調査されました。

犬種、性別、犬のサイズによってリスクが異なる

様々なサイズの6匹の犬

調査は当該大学の獣医学教育病院に通院歴のある約5万匹の犬の過去15年分のデータを分析して行われました。そのうち、条件を満たしデータ分析に使われた犬は1万5千匹程です。

分析された35犬種は以下の通りです(英語名によるアルファベット順)。

  • オーストラリアン・キャトル・ドッグ
  • オーストラリアン・シェパード
  • ビーグル
  • バーニーズ・マウンテン・ドッグ
  • ボーダー・コリー
  • ボストン・テリア
  • ボクサー
  • ブルドッグ
  • キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル
  • チワワ
  • コッカー・スパニエル(アメリカン)
  • コリー
  • コーギー(ペンブロークとカーディガン併せて)
  • ダックスフンド
  • ドーベルマン
  • イングリッシュ・スプリンガー・スパニエル
  • ジャーマン・シェパード・ドッグ
  • ゴールデン・レトリーバー
  • グレート・デーン
  • アイリッシュ・ウルフハウンド
  • ジャック・ラッセル・テリア
  • ラブラドール・レトリーバー
  • マルチーズ
  • ミニチュア・シュナウザー
  • ポメラニアン
  • トイ・プードル
  • ミニチュア・プードル
  • スタンダード・プードル
  • パグ
  • ロットワイラー
  • セント・バーナード
  • シェットランド・シープドッグ
  • シーズー
  • ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア
  • ヨークシャー・テリア

分析から分かったことで注目したいポイントは次のような点です。

  • 多くの犬種では、調査した5種類の腫瘍と3種類の関節疾患について、避妊・去勢手術の有無と実施時期に関連した発生率の増加は見られなかった
  • 避妊・去勢手術に関連した関節疾患の発生率は体の大きさに関係する
  • 小型犬種では避妊・去勢手術による関節疾患の発生率の増加は見られなかった
  • 超大型犬種であるグレート・デーンとアイリッシュ・ウルフハウンドでは大型犬としては例外的に、何歳の時点で避妊・去勢手術をしたとしても、関節疾患の発生率は高まっていなかった
  • 小型犬種では、腫瘍の発生率は避妊・去勢手術をした犬でもしていない犬でも低かった(以下の2つの例外あり)
  • 小型犬種の例外として、ボストン・テリアのオスは1歳未満で去勢手術を受けた犬では腫瘍の発生率が高かった
  • 小型犬種の例外として、シーズーのメスは1歳台で避妊手術を受けた犬では腫瘍の発生率が高かった
  • ゴールデン・レトリーバーのメスは、避妊手術をしたのが何歳であっても腫瘍の発生率が高かった

以上のことから、「ほとんどの犬種では、避妊・去勢手術をする時期はかかりつけの獣医師と相談の上で任意の時期で良いけれども、いくつかの犬種では以下の時期に手術を行うことが推奨される。」と研究者らは述べています。これらの時期は特定の腫瘍と関節疾患以外に、メス犬での尿失禁についてのデータも反映されています。

  • オーストラリアン・キャトル・ドッグのメス 6ヶ月齢以降
  • ビーグルのオス 1歳以降
  • バーニーズ・マウンテン・ドッグのオス 2歳以降
  • ボーダー・コリー オスメス共に1歳以降
  • ボストン・テリアのオス 1歳以降
  • ボクサー オスメス共に2歳以降
  • コッカー・スパニエル オス6ヶ月齢以降 メス2歳以降又は6~11ヶ月齢時に
  • コリーのメス 1歳以降
  • コーギーのオス 6ヶ月齢以降
  • ドーベルマン オス1歳未満に行うか去勢しない メス2歳以降(オスメスともにデータ数が少ないが)
  • イングリッシュ・スプリンガー・スパニエルのメス 1歳以降
  • ジャーマン・シェパードド・ドッグ オスメス共に2歳以降
  • ゴールデン・レトリーバー オス1歳以降 メス手術しない又は1歳以降に手術し、その後腫瘍の発生に注意する
  • アイリッシュ・ウルフハウンド オス2歳以降 メス1歳以降
  • ラブラドール・レトリーバー オス6ヶ月齢以降 メス1歳以降
  • ミニチュア・プードルのオス 1歳以降
  • スタンダード・プードルのオス 2歳以降
  • ロットワイラー オス1歳以降 メス6ヶ月齢以降
  • セント・バーナード オスメス共に1歳以降
  • シェットランド・シープドッグのメス 2歳以降
  • シーズーのメス 2歳以降又は4~5ヶ月齢

犬の避妊・去勢について考えたいこと

ケージの中の三匹の子犬

この研究からは、犬に避妊・去勢手術を施す場合には、飼い主がかかりつけの獣医師とメリットデメリットを含めてよく相談し、手術をするのかしないのか、いつするのかを慎重に検討する必要があることが分かります。

これから犬を迎えようと思っている方、若い愛犬の避妊去勢について悩んでいる方はこのガイドラインを参考にかかりつけの獣医師と相談なさってください。

けれど、愛犬がもうすでに避妊・去勢手術を受けていて、その時期がこのガイドラインとは違っていた場合にも、どうか落ち込んだり嘆いたりなさらないでください。

このガイドラインは、アメリカの一大学病院に通院歴のある犬を避妊・去勢手術実施の有無と実施時期別にそれぞれの病気の発生率を比較したものであり、このガイドラインから外れるとその病気に高確率でなる、ということではありません。また、今回調査の対象となった病気には、避妊・去勢手術以外にも発生しやすくなる原因があるものがあります。また、ある病気のリスクが高いかもしれない、ということを知っていれば、前もって獣医師と相談して早期発見に努める、ペット保険を見直すなどの行動がとれます。そして何より大切な、愛犬との毎日をしっかりと楽しむことを忘れないでください。

避妊・去勢手術の実施の有無と実施時期によって、特定の病気の発生率が高くなるというのは、科学的なデータの裏付けがあることだと示されましたが、避妊・去勢手術を受けた犬の方が平均寿命が長いというデータも発表されています。

またこのような避妊・去勢手術に関してネガティブな意見を含む研究が発表されると、避妊・去勢を必須としている保護団体やレスキュー活動をしている方々を非難する論調が生まれることがあります。

しかし、保護活動をされている方々は決してこのような病気のリスクを無視しているわけではありません。避妊・去勢のメリットがデメリットを大きく上回ると判断して手術を受けさせています。例えば、子犬を産める状態の保護犬は、悪質な繁殖業者によって交配用に使われてしまうこともあります。その結果生まれる様々なリスクや苦痛は、避妊・去勢手術を受けた後普通の家庭に迎えられて将来病気になるリスクの比ではありません。

繁殖業者が興味を示さない雑種犬などでも、せっかく保護されたのにまた行き場のない子犬が生まれてくるようなサイクルは止めることが必要です。

犬の避妊・去勢については、手術を受ける犬の健康の問題と共に、上記のような問題も付いてくることがあると知っていただければ幸いです。

まとめ

聴診器をくわえたボーダーコリー

犬種や性別によって、避妊・去勢手術と特定の病気の発生率には関連があること、35犬種について避妊・去勢手術をするのに良い年齢のガイドラインが発表されたことをご紹介しました。

犬と暮らしている方には関心の高い問題だと思います。下にこの研究についての論文をご紹介していますが、リンクから全文を読むことができます。各犬種ごとの詳しいガイドラインや手術が推奨される時期が一目で分かる表も掲載されています。論文は英語で書かれていますが、興味のある方はご覧になってみてください。

《論文》
Hart, B. L., Hart, L. A., Thigpen, A. P., & Willits, N. H. (2020). Assisting Decision-Making on Age of Neutering for 35 Breeds of Dogs: Associated Joint Disorders, Cancers, and Urinary Incontinence. Frontiers in veterinary science, 7, 388.

【獣医師の補足】

従来、「避妊手術をすれば乳腺腫瘍の発生を抑えることができる。初回発情を迎える前に避妊手術を行うと、特に乳腺腫瘍の発生率が低くなる。」と言われてきましたが、この論文では、「避妊手術による乳腺腫瘍予防の効果と、手術時期による予防効果の違いの科学的根拠は薄い」とする別の研究を紹介しています。また今回の調査においては、避妊手術をしない犬で乳腺腫瘍の発生率が非常に高いとは考えにくく、「老齢になってから発生することが多い乳腺腫瘍が犬とその飼い主に及ぼす影響は、もっと発生時期が早い関節疾患や他の腫瘍よりも小さいだろう。」と研究者らは述べています。

本論文においても犬種のみならず、犬のサイズと避妊・去勢手術、特定の疾患の発生率が関連していると述べられていますが、同じ研究チームが混血犬について体重別に本論文と同じ内容を調査した結果も発表されています。その調査結果からも、体重20kg以上の犬では1歳または2歳以降に避妊・去勢手術をすることが勧められています。

《混血犬についての論文》
Hart, B. L., Hart, L. A., Thigpen, A. P., & Willits, N. H. (2020). Assisting Decision-Making on Age of Neutering for Mixed Breed Dogs of Five Weight Categories: Associated Joint Disorders and Cancers. Frontiers in veterinary science, 7, 472.

獣医師:木下明紀子
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