犬の和解行動についての研究
霊長類をはじめとして、イルカ、オオカミなど様々な動物の間で、争いの後の和解が観察され研究が発表されてきました。私たちにとって最も身近な動物である犬。
犬同士がケンカをした後に仲直りをする光景を見たことがあるという方は多いと思います。アメリカのバトラー大学の心理学の研究チームが、犬の和解行動についての仮説とそれを検証する研究結果を発表しました。
犬の和解の目的を読み解くための3つの仮説
研究者たちは犬の和解行動について3つの仮説を立てて、それを検証していくことで犬が紛争の後に和解する理由を探っていきました。
仮説1 和解の目的は群れの中の関係を回復するため
オオカミのような社会的な動物では、食べ物、安全、暖かさなど、生活上の利益のために群れのメンバーはお互いを必要とします。そのため、争いが起きた後には群れの中の関係を良好な状態に戻す必要があります。
仮説2 和解の目的は群れの中の階層を維持するため
これは争いの後に和解するとき、地位の低い方の動物が和解の相手に対して敬意を示して行動しなければいけないことを示します。
仮説3 和解の目的は潜在的な争いや攻撃に関するストレスや不確実性を最小限に抑えるため
争いの後に和解をしないでいると、将来また同じようなことが起きる可能性が残り、それがストレスとなります。和解で争いの火種を消して、ストレスの元を消すという目的です。
この3つの仮説を検証するため、研究者は2エーカー(約2400坪)の広さのドッグパークで犬の行動を観察し、争いの後の和解行動を調べました。1回1時間のセッションを72回実施して177匹の犬を観察し、明確に「争い」だと言える行動が14件ありました。この14件には計22匹の犬が関わっていました。
和解した犬たちの行動から分かったこと
研究者は上記の14件のみに焦点を合わせて、犬同士の争いの攻撃者と被害者を追跡観察しました。この件で怪我をした犬はいませんでした。和解があった全ての場合において、和解は争いの直後に起こっていました。
犬同士が元々知っている者同士だった場合は、初対面の犬同士よりも和解行動が少なかったことが分かりました。このことから「和解は群れの中の関係を回復させるため」と言う仮説1は成立しません。
初対面の犬同士ということは、彼らの間に階層もないということなので「和解は階層を維持するため」という仮説2も成立しないことになります。
犬同士の争いに関わった犬は被害者と攻撃者の両方が、和解した後には争いの前よりも一緒に時間を過ごす傾向が強いことも分かりました。攻撃者が争いの後に再び攻撃性を示した場合、それは他の犬に向けられ、争いの際の被害者には向けられませんでした。
また、争いの後ただ単に犬同士が距離を置いて離れ、和解行動が見られなかった場合にはケンカをした犬同士が親しくなる傾向は見られませんでした。
これらのことから研究者たちは、和解後に親しくなる犬の行動は「和解の目的は将来の攻撃や争いへの不確実性を減少させるため」という仮説3を裏付けていると結論付けました。
犬が争った後に直ちに和解した場合には、その後攻撃が繰り返されるリスクが低くなります。それは人間の謝罪とは違うものです。争った犬同士の「争いの状況は終わりました。先に進みましょう」という意思の確認であると認識しておくことが大切です。
まとめ
犬同士が争った後に和解を示す行動をするのは、その後も争いや攻撃が繰り返されるリスクを低くして、将来の不確実性を減少させるのが目的であるという研究結果をご紹介しました。
犬のケンカにはどうしても神経質になってしまう人が多いと思いますが、怪我のない状況で直ちに和解する行動が見られた場合には、犬同士が仲良くなるチャンスでもあるようです。飼い主が犬の行動をしっかりと観察し、動作や行動の意味を理解しておくことの重要性を改めて感じさせられました。
《参考URL》
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0168159120300708