慢性疾患の愛犬の介護と飼い主の生活
獣医療の発達と共にペットの寿命も長くなり、その生涯の中で健康状態が悪くなることもあります。それに伴ってペットの介護をする人も増えていますが、介護者の様々な負担について調査したり語られたりすることは今までほとんどありませんでした。
イギリスの獣医師が、変形性関節症の犬と暮らしている飼い主へのインタビューを行い、慢性疾患の犬の介護が、飼い主の生活の身体面、精神面、経済面においてどのような影響をもたらすかを調査しました。
変形性関節症の犬と暮らす飼い主が対象に
飼い主による介護が必要な犬の慢性疾患は、糖尿病、てんかん、心臓疾患など数多くありますが、このリサーチでは変形性関節症の犬と暮らす飼い主さんを対象としました。
犬の変形性関節症は、進行性の慢性疾患で運動能力と生活の質を大きく低下させてしまいます。シニア犬に多く見られますが、若いうちから発症することもあります。
この疾患が犬の生活に及ぼす影響については多くの研究が発表されていますが、飼い主の生活の質、精神的および身体的健康に及ぼす影響について調査されたことはありません。
研究者は様々な犬種と年齢の35匹の犬の飼い主にインタビューを行い、愛犬が変形性関節症と診断された時の感情や、日常生活の中で苦労していること、介護をする中での感情面での変化などについて聞き取り、書き起こしていきました。
インタビューからわかったこと
インタビューを受けた飼い主のうち、犬の変形性関節症の経験のある人はほとんどいませんでした。
そのため最初に診断を受けた時にはほとんどの人が「年齢的なものだろう」と軽く考えていたと答えています。しかし若い犬の飼い主さんでは診断にショックを受け、中には泣いてしまったという人もいました。
飼い主たちは時間の経過とともに増加していく心配について答えました。具体的に、精神面および身体面での負担やストレスとなっていることは次のようなものでした。
- 定期的な通院のストレス
- 効果的な治療法を見つけることができない
- 犬に薬を服用させることが難しい
- 運動能力が制限されるため、病気の管理に重要な適性体重を保つことが難しい
- 運動能力低下や投薬のため、飼い主が家を離れる時間が制限される
また通常の動物病院での治療費に加えて、低下する運動能力のサポートのための補助具、セラピーやサプリメントなどの経済的な面での負担も大きな問題です。
犬はこの疾患のために、動きが鈍く遅くなり長距離を歩くことや階段の昇り降りができなくなり、その結果自信を大きく喪失してしまいます。
また犬のこのような精神面での変化は、飼い主への身体面および精神面での依存につながります。飼い主は運動能力の低下までは簡単に理解できても、犬の精神的なものから来る行動の変化が意味することを理解するのに苦労する場合が多いことも分かりました。
愛犬の介護は、飼い主にとって身体面、精神面、経済面で大きな負担となり生活の質を低下させます。それにもかかわらず愛犬の介護をする動機を尋ねられると、ほとんどの人は「愛犬との強い絆」と答えたということです。
予想できたこととは言え、こうして飼い主の負担やストレスが明らかになることで、獣医師をはじめとする専門家はどんな情報や助言が有効で、どのようなサポートが必要なのかが具体的に分かるようになります。
まとめ
変形性関節症の犬を持つ飼い主へのインタビューから、愛犬の介護がもたらす飼い主の精神面、身体面、経済面での負担や生活の質の低下についてのリサーチ結果をご紹介しました。
ペットの介護は人間の介護のような社会的な支援がないこと、ペットを飼っていない人から理解されないことなど、人間の場合とはまた違う負担があります。
このようなリサーチや研究が行われることで「ペットの介護が真剣に考えられている」という事実だけでも飼い主の心のサポートになる面もあります。
そしてもちろん、飼い主に対する様々な面での具体的なサポート方法が開発される助けにもなります。今後さらに研究が広がっていくことに期待したいですね。
《参考URL》
https://bmcvetres.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12917-020-02404-5