犬と散歩することのメンタル面への影響をリサーチ
アメリカにおいては、戦地から負傷して戻ってきた退役軍人の心的外傷後ストレス障害(PTSD)は大きな社会問題の1つです。
PTSDを負った退役軍人のためのセラピードッグの育成なども行われていますが、家庭に犬を迎えることができない人も、犬によるメンタル面の癒し効果の恩恵が得られないだろうかという調査が実施されました。
調査研究はフロリダアトランティック大学、メリーランド大学、バージニアコモンウェルス大学の研究チーム、そしてウォルサムペットケア科学研究所、ペットフードメーカーのマースペットケアと退役軍人をサポートする非営利団体の協力を得て行われました。
保護施設にいる犬たちとの散歩
リサーチに参加したのは33人の退役軍人で、半数以上が何らかのPTSDの症状を示している人たちです。彼らには週に1度、合計4回、アニマルシェルターの保護犬を30分間の散歩に連れ出す課題が与えられました。散歩のコースはあらかじめ決められています。
研究者は散歩中および散歩後の心拍数、唾液中のコルチゾールやアルファアミラーゼの値を測定しました。これらは生理的ストレス指標となるものです。他に参加者からPTSDの症状や知覚されたストレスについての報告も受けました。
比較のために、同じ参加者が週に一度同じコースを30分間人間と一緒に散歩して、同じようにデータ収集をすることも行われました。
犬との散歩が果たした役割は?
PTSDの症状を示している参加者は、犬および人間の両方の散歩の後に生理学的ストレス指標と心理的ストレスレベルが多くの場合改善していました。しかし、犬と一緒に歩いたときの改善度の方がより高かったということもわかりました。
保護犬との散歩は地域コミュニティの中で他の人との交流のきっかけになります。人間同士で散歩しているときよりもその効果は顕著です。
また、参加者は週に一度アニマルシェルターを訪れることで目的意識を感じることができたと報告しています。人間だけでなく犬の方も散歩に連れ出してもらうというメリットがあり、参加者に対して喜びを示したことも想像がつきます。
これらのことの相乗効果で、犬との散歩はよりストレス軽減の効果が高かったのかもしれません。
研究者は今後さらにサンプル数を増やして研究を進めていき、動物補助療法プログラムの開発などの可能性を探っていくとのことです。
まとめ
PTSDに苦しむ退役軍人がアニマルシェルターの犬を週に一度散歩に連れ出すことで、ストレスや症状の軽減につながったというアメリカでのリサーチ結果をご紹介しました。
退役軍人というと日本人にはあまり馴染みのない世界のように思われるかもしれませんが、PTSDという大きなストレスも週に一度保護犬の散歩に出かけることで緩和されるというのは、一般的にも広く知られてほしい結果です。
犬が好きだけれど様々な事情から飼うことはできないという人にとって、動物保護施設などの散歩ボランティアに参加することは犬と人間両方の心を癒してくれることのようです。このようなリサーチ結果が周知されることで、保護施設や保護団体のボランティアに参加する人が増えるきっかけになればいいなと思います。
《参考URL》
https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/08927936.2020.1719763
https://www.waltham.com/news-events/human-animal-interaction/why-walking-shelter-dogs-could-benefit-military-veterans-struggling-with-ptsd/5995/