敏感な感覚のために問題を抱えてしまう人や犬
聴覚や触覚などの感覚が平均よりもずっと敏感なために問題を抱えてしまうという人たちがいます。大きな音や強い光に対して我慢できないほどの嫌悪を感じたり、洋服の縫い目が触れただけで痛みを感じてしまうなどの例があります。
これらの感覚を言葉でうまく表現できない赤ちゃんや小さい子供は泣いたり怒ったりすることで嫌悪を示し「難しい気質」と呼ばれたり、日常生活に支障を来してしまうことがあります。
これら刺激に対する反応は『感覚処理感受性』と呼ばれます。この感覚処理感受性とよく似た特性が犬にもあることが確認されました。
スイスのベルン大学とイギリスのニューキャッスル大学の研究者が、犬の感覚処理感受性と行動上の問題について大規模なアンケート調査を行い、その関連性について分かったことが発表されました。
犬の行動に影響を与える要因
感覚処理感度が高い人間が、適切ではない環境の中にいたり、周囲の人(多くは親)とのコミュニケーション方法が適切でない場合に、行動上の問題が現れたり心理的および感情的な健康を損なうことがあります。同様のことが犬と飼い主の関係でも起こるのかどうかを探るため、次のような仮説が立てられました。
- 仮説1 犬の行動上の問題の多くは感覚処理感度の高さに関連する
- 仮説2 犬と飼い主の感覚処理感度が一致しない場合犬の行動上の問題が起こりやすい
- 仮説3 犬の行動上の問題は感覚処理感度の高さと嫌悪ベースのコミュニケーションに関連する
この仮説を検証するために、研究チームは大規模なオンラインアンケートを実施し、3,647匹の犬のデータが集計されました。
質問内容は、犬に行動上の問題があるかどうか(ある場合はその内容も)。犬と飼い主のコミュニケーションについては嫌悪ベースか報酬ベースか。例えば犬が望ましくない行動をした時に「大きな声で叱る」「叩く」などは「嫌悪ベースでプラスの罰」。
「おもちゃを取り上げる」「しばらく無視する」などは「嫌悪ベースでマイナスの罰」。望ましくない行動には何も反応せず望ましい行動を見せた時に「トリーツなど報酬を与える」「撫でる、褒める」などは「報酬ベースのプラスの強化」。これらのうちの当てはまるものを選びます。
また犬と飼い主両方の感覚処理感度を測定するための一連の質問も設定されていました。
アンケート調査の結果から分かったこと
アンケートの結果を分析して前述の仮説を検証したところ、次のようなことがわかりました。
感覚処理感度が高い犬は行動上の問題が発生する可能性が高い
これは仮説1で予測した通りの結果でした。感覚処理感度のスコアが高かった犬の飼い主は、スコアの低かった犬の飼い主よりも行動上の問題を報告している率が高くなっていました。
例えば大きな音に対して敏感な犬は分離不安を示す率が高いなどです。
犬と飼い主の感覚処理感度の傾向が一致していないと行動上の問題が発生する可能性が高い
これも仮説2で予測した通り、犬と飼い主の感覚処理感度や性格の不一致が行動上の問題と関連していました。特に犬が高い感覚処理感度を示し、飼い主の方はそうではなかった場合により多くの行動上の問題が発生していました。
嫌悪ベースのコミュニケーションは行動上の問題を増加させる
これは仮説3とは少し違う結果が示されました。感覚処理感度の高い犬ほど嫌悪ベースのコミュニケーションによって問題が増えると仮説が立てられたのですが、嫌悪ベースでプラスの罰(怒鳴る、体罰など)を使った場合、犬の性格に関係なく全ての犬で行動上の問題の発生率を高くしていました。
しかし嫌悪ベースでマイナスの罰(犬にとっての好ましいものを取り上げる)を使った場合、感覚処理感度の高い犬でのみ行動上の問題が増加していました。
人間の子供の場合、感覚処理感度の高い子供に対して適切でない指導やコミュニケーションを取った時に感度の平均的な子供よりも悪い影響が大きく出るという報告があるそうですが、犬の場合にも同様のことが言えるようです。
まとめ
聴覚や触覚などの感覚が鋭敏な犬は平均的な犬よりも行動上の問題が起きやすく、嫌悪ベースのコミュニケーション(特にマイナスの罰が与えられた時)や、飼い主よりも感度が鋭敏で性格が一致しない時にも問題が起きやすいという調査結果をご紹介しました。
これは言い換えれば、行動上の問題がある場合にも環境の見直しや飼い主とのコミュニケーション方法を変えることで解決できる可能性があるということです。
嫌悪ベースのコミュニケーションの悪影響、個々の犬の違いを考慮して接することの重要性が改めてよくわかる研究結果です。
《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41598-020-62094-9