大きな音を怖がる犬の研究
毎年夏になると、花火や雷が怖い犬にどのような対策を取れば良いかという話題があちこちで見られます。
科学的な見地からも、原因から対策に至るまで動物行動学や獣医学さらには遺伝子学など様々な角度から研究が行われています。スイスのベルン大学のコンパニオンアニマル行動学の研究者は、一般に巷でよく採用されている「犬のための大きな音対策」について大規模なアンケート調査を行い、その分析結果を発表しました。
色々な対策の中で最も効果的だったのはどんなものだったのでしょうか?
飼い主たちが実際に利用している大きな音対策を比較
研究者は犬の飼い主1,225人へのアンケート調査を行い、飼い主が利用した対策方法を分析しました。花火が上がっている間の犬の様子も所定のスコアで恐怖度を評価して回答してもらいました。
飼い主が取った対策は次の4つの分野に分類されました。
- 犬の行動に働きかける(脱感作、カウンターコンディショニング、リラクゼーショントレーニング)
- 処方薬(獣医師が処方する精神安定剤など)
- 代替療法(フェロモン、ハーブ製品、サプリメント、エッセンシャルオイル、ホメオパシー、バッチフラワー)
- サンダーシャツなど体に適度な圧力をかける衣類
上記の対策のうち、脱感作とは「怖いと感じる刺激に段階的に接触することで、段々と慣れていく方法」です。花火や雷の録音された音を怖いと感じないくらいの小さな音で再生し、犬が苦痛を感じない範囲で少しずつ音量を上げていきます。
カウンターコンディショニングとは条件付けの方法の1つで、怖いと感じる刺激をトリーツや遊びなどポジティブなものに置き換えていく方法です。
犬の行動に関係なく、刺激(この場合は花火などの大きな音)があるとトリーツや遊びなど嬉しいものが提供されることで「怖がる」という行動を変化させていきます。
リラクゼーショントレーニングは、マッサージや撫でることで犬をリラックスさせ「リラックス」「いい子ね」などの言葉を発して、穏やかな状態と言葉とを関連させる条件付けを行います。これによってストレスフルな状況に置かれた時にマッサージ無しで言葉だけで犬がリラックスする状態を作るという方法です。
最も効果が高かったのはどの方法?
実に様々な対策の方法が提示された中で、最も高い効果が確認されたのは「カウンターコンディショニング」でした。具体的には、花火が始まったら飼い主は犬と遊んだりトリーツを与えたりポジティブな態度を示しました。この方法に対して70%以上の人が有効だったと回答しています。
次に効果が高かったのはリラクゼーショントレーニングで’69%の人がほ「ほぼ成功した」と回答しています。処方薬も69%の人が改善を報告しました。薬の種類によっては90%を超える改善報告もありました。サンダーシャツのようなプレッシャーを加える衣類は44%が効果的だと回答しました。
代替療法については個々の方法の評価はされていないのですが、効果があったという回答が27〜35%の範囲であり、プラセボ効果に基づいて予測される値よりも高くないとのことでした。(この場合のプラセボ効果は犬の方ではなく、飼い主が「良い方法を試したのだから改善しているはず」と感じる効果です。)
このような結果から、研究者は大きな音を怖がる犬への対策として、家庭で行うカウンターコンディショニングとリラクゼーショントレーニングに加えて、獣医師と相談して処方薬を組み合わせることが最も効果的であるとしています。
まとめ
花火など大きな音を怖がる犬への対策を比較し、どの方法が有効だったと感じた人が多かったかのリサーチ結果をご紹介しました。
最も効果が高かったと分析されたカウンターコンディショニングは、犬にとっても人にとっても負担が少ない方法で、研究者は「新しく犬を迎えた時に、犬が大きな音に対して恐怖を示さない場合でもこのコンディショニングを行ってください」と進めています。
本格的な花火や雷の季節を前にして、参考になることがあれば幸いです。
《参考URL》
https://doi.org/10.1016/j.jveb.2020.04.005