親しい者の役に立つことが人間の心理に及ぼす効果
犬を飼うことで孤独が癒されたり、心が安らかになるという効果は多くの研究によって示されています。
これら過去の研究では「犬が与えてくれるもの」に焦点が当たりがちですが、イスラエルの心理学者の研究チームが少し視点を変えた「犬を飼うことの良い効果」についてのリサーチ結果を発表しました。
人間同士の関係についての研究では、家族や友人など親しい人を世話する行為が、世話をする方の人が充実感や心の安らぎなど心理的健康につながると言われています。
研究チームは、この「親しい人」を愛犬に置き換えた場合にも飼い主の心理的なニーズが満たされるだろうかという点をリサーチしました。
様々な年代のドッグオーナーへのアンケート調査
リサーチは16歳から74歳まで、犬を飼っている様々な年代の人たち104人に21日間に渡って日記をつけてもらい、毎日犬との関係についての質問に答えるという形で行われました。質問項目は心理学の理論に基づいた評価が測定できるようデザインされています。
参加者は「自分自身のニーズに対して犬が応えてくれたこと」と「犬のニーズに対して自分自身が行ったこと」の両方について、所定の方法で評価します。
例えば、犬が応えてくれたことについては「私の犬は私のことを気にかけて愛してくれていると感じる」といった項目があります。犬に対して自分が行ったことでは「犬と触れ合う時、心から気にかけていることを見せようとした」などの項目があります。
また自分と犬の関係の近さ=親密度を測定する評価スケールにも毎日記入しました。犬と自分自身の関係とは別に、日常生活の満足度、毎日の幸福度、毎日の心理的苦痛の評価も行いました。
愛犬に「与えること」で与えられる幸福感
3週間に渡って上記の詳細な項目に毎日解凍した結果が集計されました。
飼い主が「自分のニーズに犬が応えてくれたこと」が多いと感じている場合、飼い主の幸福度や犬との親密度が高くなり、心理的苦痛の軽減につながっていました。これは予想されていた通りです。それだけでなく、犬のニーズに対してより多く応えたりサポートを与えた飼い主は幸福度が高く、犬との親密度も高いこと、心理的苦痛度は低いことが示されました。
つまり、犬を飼うことのメリットは犬から与えられるサポートに加えて、犬に与えるサポートが自分自身を満たすことになっているようです。
心理学の研究者たちは、ペットの飼い主はペットが人間と同じような心理的ニーズを持っていると認識している可能性があると説明しています。
飼い主が考える犬の心理的ニーズに応えようとすることは、親しい人間のニーズに答えることと同様にケアを提供する人に心理的な利益をもたらすとのことです。
これは飼い主がペットを大なり小なり擬人化しているということです。この擬人化の程度が、ペットのニーズに応えることから得られる心理的利益にどのように影響するか、将来の研究でさらに検討する必要があると研究者は述べています。
まとめ
犬の飼い主は、犬が与えてくれる心理的なサポートからはもちろんのこと、自分が犬のニーズに対してケアやサポートを与えることで、幸福感、満足感、心理的苦痛の軽減といったメリットを得ているというリサーチ結果をご紹介しました。「確かに愛犬のケアをすることに幸せを感じるな」と納得する人も多いのではないでしょうか。
しかし、飼い主が考えている「犬の心理的ニーズ」は人間と同様だと考え擬人化している可能性もあるため、犬のケアから得られる幸せや充実感が自己満足に陥らないよう気をつける必要もあると感じました。
《参考URL》
https://link.springer.com/article/10.1007/s10902-020-00279-9