火災現場などの捜査に参加する探知犬の能力
犬はその素晴らしい嗅覚を使って、私たちの生活の様々な面をサポートしてくれています。犯罪の科学捜査もその中の1つです。例えば火災現場で原因を捜査する場合、犬は人間には感知できない微量のガソリンの残骸を嗅ぎ分けることができます。しかし当然ながら、犬は「ガソリンの残骸の臭いを探知しました」と法廷で証言することはできません。
つまり犬が探知した臭いの証拠は、残留物をラボラトリーに持ち帰って分析し数値として証拠にする必要があります。しかし探知犬が「臭いがする」というジェスチャーを示したにもかかわらず、分析の結果は陰性(何も出ない)という場合が数多くあるのだそうです。これは犬が間違ったと言うよりも、分析の技術が犬の嗅覚に追いついていないと考えることができます。
そこで、この度カナダのアルバータ大学の化学者のチームが、犬が嗅覚によって探知できるガソリンなどの着火促進剤の濃度をリサーチし、嗅覚の再評価を行いました。
犬が探知できる臭いの濃度の下限とは?
研究には2組の犬とハンドラーが参加しました。1組目は様々な種類の発火性の液体を探知するように訓練され、もう1組は主にガソリンの臭いを探知するよう訓練されました。
結果は、様々な種類の液体で訓練された犬は全ての臭いを検出するのに優れていたのですが、ガソリンで訓練された犬は他の液体が非常に低い濃度になった時には検出する能力が落ちることを示しました。犬の優れた嗅覚も、訓練によってより研ぎ澄まされるというわけですね。
しかしこの研究に参加した犬たちは5ピコリットルのガソリンを探知して検出することができたそうです。5ピコリットルというのは小さじ10億分の1に当たります。5ピコリットルでは繰り返し検出に成功しましたが、3ピコリットル以下になると検出ができなかったそうです。
このようにして、犬が探知して検出できる発火性の液体の濃度の下限が掴めました。つまり、この下限が犯罪の科学捜査を行う法医学での目標値となります。
科学捜査が犬の嗅覚に追いつくための基準の開発
このリサーチのもう1つの目的は、微量レベルの物質を検出した犬の嗅覚を正しく評価するための基準を開発することでした。これはラボラトリーで現在使われている方法では困難であるため、今回のリサーチ結果を元に新たな研究の実施要綱が作られていくのだそうです。
最新の科学捜査の上を行く犬の嗅覚、それに追いつくための研究とはすごいですね。
まとめ
最先端の科学捜査と聞くと、とても高度で精密な方法で行われていると考えられますが、訓練されて研ぎ澄まされた犬の嗅覚はそのさらに上を行き、犬に追いつくための研究が行われているということをご紹介しました。
小さじ10億分の1のガソリンすら探知して検出する犬の能力は、犬の嗅覚が優れていることを知っていても驚嘆せずにはいられません。
これらの研究結果をもとに、新しく開発されるラボラトリーでの分析方法は放火などの捜査に大きく貢献して行くことと思われます。犬が人間のために発揮した能力を最大限に活かすための研究、素晴らしいことですね。
《参考URL》
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S2468170920300187?via%3Dihub