犬は人間を見る時まずどこに目をやる?
私たち人間は誰かと会話をしたり人を紹介された時、ほとんどの場合相手の顔に視線が行くかと思います。対象が生身の人間ではなく写真やモニター上の画像の場合でも、まずは顔に目が行くという場合が多いでしょう。さらには相手が人間ではなく犬や猫であっても、やはり最初は顔に目が行くでしょう。
これは人間だけでなく霊長類(ゴリラ、チンパンジー、オランウータン)の場合も同じだそうです。霊長類が人間や他の霊長類を見る時に最初の視線はほとんどいつも顔に向けられているという研究結果もあるそうです。この度、日本の北里大学獣医学部の研究チームによって犬が人間を見つめる時に視線はどこに向いているかという予備研究が行われ、実験の結果が発表されました。
犬の視線を観察する実験の方法
実験には1歳から18歳の7匹の家庭犬が参加しましたが、最終的にデータを取ったのは3匹の犬でした。犬たちは目の前のカラーディスプレイ に表示された「犬・猫・人間」の全身画像を見せられます。これらの画像に対する犬の注視行動は視線追跡カメラによって記録されました。記録されたのは、犬の視線がそれぞれの画像のどの部分に向けられ、どのくらいの時間視線が留まっていたかなどです。
人間の画像では、犬が知っている人、知らない人、腕を体の横につけてただ立っている画像、腕でトレーニングのための合図を出している画像が使用されました。
犬が注目した場所は?
観察実験の結果は、犬が犬及び猫の画像を見た場合には最初の視線は顔(頭部)に向かう傾向が強く、視線が留まっている時間も一番長いのが顔でした。見る対象が猫の場合には体にも長い時間視線が留まっていました。
犬が見る画像が人間になった場合、犬が最初に視線を向けるのも最も長い時間視線が留まっているのも「手と腕」でした。これは体の横に腕をつけた直立姿勢でもそうだったのですが、腕と手で「オスワリ」「フセ」などの合図を出している画像の場合、手と腕に視線が留まる時間がさらに長くなったことも分かりました。 そして画面に映っている人間が、知っている人でも知らない人でも視線の位置や見る時間には大きな差がなかったのだそうです。
たとえ知らない人であっても、社会的なコミュニケーションの手段として犬は人間の手の動きに注目しているということです。
この結果はトレーニングなどのために犬に合図を出す時、声だけでなく手によるジェスチャーを同時に使った方が効果的であることを裏付けていると言えるでしょう。また訓練を受けたことのない犬も人間の指さしジェスチャーを理解するという、インドでの研究とも一致する点があります。今回の実験は予備研究なので、今後さらに研究が進められることでしょう。
まとめ
犬が人間の画像を目にした時に最初に目が行くのも最も長い時間見ているのも、顔ではなく手と腕であるという研究の結果をご紹介しました。犬には人間との非言語コミュニケーションに特化した注意の払い方があること、注意の払い方は人間の手のジェスチャーに重点を置いていることなどがこの研究から分かります。私たちも愛犬のトレーニングを行う時に積極的に手のジェスチャーを取り入れるなどの大きなヒントになりますね。
《参考URL》
https://www.mdpi.com/2076-2615/10/5/755