関わる人間によって動物の行動が変わるということ
動物が人間と関わることによって警戒したりストレスを感じたりするのはよくあることです。その結果として行動さらには生理機能(排泄や食欲など)にまで影響が及ぶこともあります。動物の中では人間との関わりが深い犬においても、その傾向があるというリサーチ結果が発表されました。
アメリカのコーネル大学の進化生物学の研究者たちが、動物保護施設で保護されている犬の散歩中のマーキング行動を記録観察した結果、散歩させる人の性別によって行動に違いが出ることがわかったそうです。
どのような違いが見られたのでしょうか?
リサーチの概要
リサーチはニューヨーク州トンプキンス郡動物虐待防止協会の施設において、保護犬のマーキング行動に関する長期的な研究プログラムの一環として実施されました。具体的な期間は2017年9月から2019年12月の2年4ヶ月でした。
100匹の犬(オス犬57匹メス犬43匹)の散歩時の排泄の様子のデータが集められ分析されました。犬の散歩をさせるのは施設でボランティアとして働いている人たちで、犬たちにとって馴染みのない人が散歩させた時のデータを対象にしています。それぞれの散歩の時間は1回20分間でした。
オス犬57匹のうち56匹は去勢処置済み、1匹だけが未去勢でした。メス犬は36匹が避妊処置済み、7匹が未処置でした。(譲渡時には全て避妊去勢が済んだ状態で引き渡されます。)
散歩する人の性別でどんな違いがあった?
犬を散歩させるのが男性か女性かによって、犬の行動にはそれぞれ顕著な違いが観察されました。
散歩中の排尿の回数
オス犬は男性と散歩した時よりも女性と散歩した時の方が明らかにおしっこをする回数が多いことが分かりました。さらに20分の散歩中1回もおしっこをしなかったオス犬は6匹いましたが、うち5匹が男性との散歩中で1匹は男性女性どちらでもおしっこをしませんでした。
反対にメス犬では、散歩する人が男性でも女性でもおしっこの回数に違いは見られませんでした。20分の散歩中1回もおしっこをしなかったメス犬は1匹で、それは男性との散歩中ででした
散歩中の排便の回数
散歩中のうんちの回数はおしっこの場合と違ってオス犬とメス犬での違いはありませんでした。しかしここでも散歩をさせる人の性別によってはっきりとした違いが見られました。男性と散歩した場合に犬がうんちをした率は44%、女性と散歩した場合には74%でした。
排尿時の姿勢の違い
オス犬がおしっこをする時の姿勢で、最も多く見られたのは4本の足を全部地面につけて、やや前方に傾斜した姿勢だったそうです。そしてこの姿勢を取るのが、男性と散歩した場合には20.6%、女性と散歩した場合には13.2%という違いが見られました。
メス犬の場合には男性でも女性でも散歩する人の性別による姿勢の違いは観察されなかったそうです。排泄後に地面を後ろ足で蹴る行動については、散歩させる人の性別による違いは見られなかったそうです。
このようにいくつかの面で、一緒に散歩する人の性別によって犬の排泄行動に違いが出ることが判りました。研究者は犬の保護施設などでは、犬に関わる人の性別による行動の違いをよく観察して分析し、譲渡のための対策、施設内での行動評価での参考などに活かすことを提案しています。
まとめ
保護施設にいる犬の散歩中の排泄行動が、リードを持って散歩する人の性別によって回数や姿勢に違いが表れたというリサーチの結果をご紹介しました。
人間との関わり合いが犬の行動にも生理機能にも大きく影響を及ぼしていることがはっきりと分かりますね。性別の違いの何が犬に影響しているのかは今後のさらなる研究を待ちたいと思います。
これは保護犬に関するリサーチですが、一般の家庭犬においても人間との関わり合いはストレス要因にもストレス緩和にもなり得ます。基本的なことを改めて考えさせられるリサーチでした。
《参考URL》
https://www.mdpi.com/2076-2615/10/4/632/htm