考古学の史料には犬のフンがたくさん残されていた!
アメリカのハーバード大学の考古生化学者であるクリスティーナ・ワリンナー博士は、人間の腸内の微生物叢が数千年の間に時代とともにどのように変化したかを研究しています。微生物叢は人間が住んでいる場所や食べているものによって影響を受け、様々な病気にも関連しています。
この研究のために、ワリンナー博士は世界中の考古学者に古代の人間の排泄物のサンプルを依頼しました。
数千年のスパンに渡る十数例のサンプルのDNAを分析したところ、いくつかのサンプルが犬の排泄物であったことが分かったそうです。
つまり考古学者が人間の排泄物として研究を進めてきた資料が、実は犬のものであったということです。
人工知能で犬のフンを判別
このように考古学の記録に犬のフンがたくさん含まれていたことが判明したことをきっかけに、博士は同僚と共同で人工知能によって人間と犬の古い排泄物を正確に区別するためのツールを開発しました。
人間と犬のサンプルからDNAを収集して、その相関を機械学習プログラムに学ばせて区別するというものです。
このツールを使って7000年前の中国の農村から回収されたサンプルや17世紀イギリスの民家でトイレとして使われていた壺などを分析した結果、人間と犬の排泄物を特定することができたそうです。中でも17世紀にトイレとして使われていた壺に入っていたのが犬のフンであったと分かったのは大きな驚きでした。
犬のフンの歴史を紐解くと分かること
人間が犬を飼いならし始めたのは約1万5千年前だと言われています。しかし家畜化がいつ、どこで、どのように始まったのかはまだ不明なままです。
犬の家畜化のある時点で、人間は自分たちの食事の残り物をオオカミに与え始めたと考えられます。そのことをきっかけに、肉食性のオオカミは雑食性の犬へと変化してきました。
古代の犬のフンを分析して、新しい食生活に対応するために犬の腸内細菌叢、そして遺伝子がどのように進化してきたかが判れば、人間と犬の関係がいつ、どのように変化してきたかのポイントが明らかになる可能性があります。
しかし別の環境考古学者はワイナリー博士が開発したツールの弱点を指摘しています。それはツールにデータ分析の学習をさせるために使用された犬の糞便サンプルがドッグフードを食べている犬のものであったことです。
ドッグフードは昔の犬たちが食べていたものと大きく異なるため、古代の犬のフンの分析に弱い可能性があります。このような課題も残していますが、犬の家畜化の歴史の新たな手がかりを掴むための有効なツールであるのは確かなようです。
まとめ
考古学の史料として残っている人間の排泄物にかなり多くの犬のウンチが紛れ込んでいること、それが分かったことをきっかけにして人と犬の排泄物を区別するためのツールが開発されたこと、ツールのおかげで犬の家畜化の未だ謎の部分が明らかになる可能性があることなどをご紹介しました。
古代の犬のウンチが想像以上に多くの情報を伝えてくれるのは驚きですが、ワクワクするようなロマンも感じますね。
《参考URL》
https://www.sciencemag.org/news/2020/04/archaeological-record-full-dog-poop