犬に人間の言葉を教える研究
「言葉が話せたらいいのにねえ」と愛犬に話しかけた経験がないという人はきっと圧倒的少数派でしょう。そのくらい犬と暮らしている人の多くが犬と言葉でコミュニケートできればいいのにと考えているわけですね。
そんな「犬が人間の言葉を話す」という研究を真剣に行っている科学者がいます。
まだ論文になって正式に発表されたわけではないので「そんな研究をしている人もいるんだな」くらいに受け取って頂けたらと思うのですが、興味深い内容なのでご紹介します。
研究を行なっているのはアメリカのマサチューセッツ工科大学の言語学部と、提携している獣医師たちから成る研究者チームです。
毎日30分犬たちに言語療法のセッションを行った結果、8ヶ月以内に人間の言葉を発し始めたということです。
犬への言語療法ってどんなことをするの?
「犬への言語療法」と聞いてもどんなものなのか全くイメージが湧きませんよね。
正式発表がないので詳細まではわからないのですが、どうやら犬に人間の言葉をゆっくりと明瞭に話しかけて、犬がその言葉を真似して発音することができるとトリーツが与えられるという通常の報酬ベーストレーニングのような感じだと思われます。
セッションは1日30分のみで、犬に大きな負担がかかるようなものでは無いようです。研究に参加している犬は12匹で純血種8匹とミックス4匹です。
1年間このセッションを続けた結果、約78%の犬で自然発話の発達が見られたとのことです。彼らの言語能力は18ヶ月齢の人間と同程度の発達であったということです。言語は通常数世代に渡って発達していくため、2045年ごろには犬が文章で話すのを見ることになるだろうと研究者は述べています。
またセッションに参加した犬の脳を定期的にMRIで調べたところ、大脳皮質の活動が大幅に増加し延髄の血流の量も増加したことが分かったそうです。どうやらセッションそのものは犬の脳にとってプラスの影響を与えているようです。
犬が話した言葉って何?犬種による成果の違いは?
犬に話しかけるセッションというのは、私たちが日常生活の中で人間に話しかけるように(たとえ犬が理解していないのは承知していても)会話形式で話をするのではなく、特定の言葉をゆっくりと繰り返し聞かせるもののようです。
アメリカでの研究ですので使われる言語は英語です。その中で犬が発語しやすい音の言葉が5つ選ばれました。言葉が持つ意味は関係がありません。
研究チーム公式の単語リストは以下のものです。
- ソーセージ
- ランチボックス
- ペリウィンクル(ツルニチニチソウ)
- ピクアクス(つるはし)
- ラット
この中で犬が最初に発語したのはピクアクス=pickaxeだったそうです。またある犬種は他の犬種よりも言語療法への反応が早かったと報告されています。
セッションに参加した具体的な犬種は、
- フィンランドスピッツ
- パグ
- チワワ
- ゴールデンレトリーバー
- ヨークシャーテリア
- ボストンテリア
- ミニチュアプードル
- メキシカンヘアレスドッグ
ミックス犬は、
- パグミックス
- ダックスフンドミックス
- ラットテリアミックス
- ピットブルミックス
です。
この中でヨークシャーテリア、ゴールデンレトリーバー、メキシカンヘアレスドッグが最初の言葉を発するまでの時間が最も短かったそうです(4〜6ヶ月)。
反対に1年のセッション継続の後も明瞭に言葉を発することがなかったのはパグとパグミックスだったそうです。
しかし犬種による違いを考えるにはあまりにもサンプルが少なく、犬種による違いなのか個体差なのかが全くわからないため、この報告には疑問を感じるところです。
まとめ
犬に人間の言葉を教える言語療法セッションを行い、その結果犬たちに発語と構文の発達が見られたという研究についてご紹介しました。
まだ論文になっていない研究なので「〜らしい」「〜と思われる」ばかりで恐縮なのですが、参加している犬たちに負担や過大なストレスがかかっていないことが一番気になります。
私自身も「言葉で教えてくれたらいいのにねえ」と犬に話しかけることはありますが、犬が実際に言葉で「おやつ!」とか「トイレ」と言うよりも、犬の声やボディランゲージを人間が読み取ってコミュニケートすることに喜びを感じるように思います。
こんなことを言ってしまっては言語学の研究という学問に対して身も蓋もないのは承知ですが、犬が人間の言葉を発するよう教えるよりも、人間が犬の身体言語を徹底的に学ぶほうがずっと手っ取り早くて犬も人にもメリットがあるような気がするのですが...。
《参考URL》
https://iheartdogs.com/scientists-predict-dog-will-begin-speaking-by-2045/