犬種と痛みへの感受性
注射や医療上の検査など誰にでも同じ一定の処置を行う場合、痛みの感じ方の強さは人によって差があります。人間の場合はどのくらい痛かったかを言葉で説明できるので、感じた痛みの強さはある程度の正確さで推測することができます。
では犬の場合はどうでしょうか?当然ながら言葉での説明はできませんが、いろいろな犬に一定の痛みを与えて反応を見るというような非人道的な実験はできません。
アメリカのノースカロライナ州立大学獣医学部の研究チームは、獣医師と一般の人々を対象にしてアンケート調査を行い、その結果を検証しました。
獣医師は様々な犬種が痛みを抱えていたり治療の痛みに耐える様子に接しているプロフェッショナルとして、一般市民は犬の痛みの感受性に関してどのような固定観念やイメージが持たれているのかを把握するために行われました。
アンケート調査の方法
調査はオンラインでのアンケート形式で行われました。
28種類の犬の犬種図鑑のような画像に犬のサイズの目安となるスケールを添えたものが示され、それぞれの犬種について痛みへの感受性についてゼロ「全く敏感ではない」から100「最も敏感である」の範囲で評価するよう依頼しました。
他に「何が犬の痛みの感受性を左右すると思うか?」という質問項目もあり、「遺伝、育った環境、皮膚の厚さ、気質、その他」という選択肢が用意されていました。
このようなアンケートについての回答が、獣医師から1078件、一般市民から1053件収集されました。
一般市民の回答が示していたもの
一般市民が犬の痛みの感度について答える時、本来なら参考になるのは自分が飼っている犬のことくらいでしょう。そのためアンケートでは28犬種の犬がリストアップされているけれど、わからない犬種については答えなくても良いと説明がついていました。にもかかわらず、ほとんどの人が全問回答したそうです。
一般の人々が犬の痛みの感受性について回答した結果をまとめると、次のようなはっきりした傾向がありました。
- 犬種によって痛みの感受性に強い弱いがあるとほとんどの人が認識している
- 小さいサイズの犬種ほど痛みに弱く、サイズが大きくなるほど痛みに強いと考えている
- 法律で飼育の禁止や制限が定められるような犬種は痛みに強いと考えている
- 大型犬でもラブラドールやゴールデンなど家庭向けの犬は痛みに中程度の感度を持つと考えている
- 皮膚の厚さは痛みの感受性に影響を与えると考えている
獣医師や専門家ではない一般の人が犬の痛み感受性についての認識が誤っていても仕方がないのですが、多くの人がこのような固定観念を持っているということは、人間(主に飼い主)が犬の痛みを認識して管理するときに影響を与える可能性があることを示しています。
ちなみにサイズと痛みの感受性の相関関係は参考程度であると言われているそうです。また法律で飼育が制限されるような犬種でも痛み感受性がとても強い犬種もいます。ラブラドールやゴールデンレトリーバーは藪の中を走ったり水に飛び込んだりすることが本来の仕事なので、痛みには強い犬種たちです。
そして犬の皮膚の厚さと痛みの感受性の相関関係は見出されていないそうです。皮膚の厚さと犬のサイズにも相関関係は示されておらず、例えばヨークシャーテリアとセントバーナードはほぼ同じ厚さの皮膚を持っているそうです。
獣医師からの犬の痛み感受性に関する回答
回答した獣医師のほとんどが犬種によって痛みの感受性に違いがあると答えています。遺伝的な要素が痛みの感受性に影響を与えているという回答の多さは一般市民と共通していました。
獣医師の多くは犬の気質も痛みの感受性に影響を与えると答えていますが、一般市民では反対の傾向が見られました。犬のサイズと痛み感受性の関係についても一般市民と違っていました。
毎日多くの犬と向き合っている獣医師が、痛みに弱い犬種、強い犬種としてあげたものをリストにしたのが以下です。
最も痛み感受性が高い(痛みに弱い)犬種
- チワワ
- マルチーズ
- シベリアンハスキー
- ポメラニアン
- ダックスフンド
- ジャーマンシェパード
- ウィペット
平均よりも痛み感受性が高い犬種
- シュナウザー
- サモエド
- パグ
- ワイマラナー
- キャバリアキングチャールズスパニエル
- ボストンテリア
- グレイハウンド
平均よりも痛み感受性が低い犬種
- ジャックラッセルテリア
- チャウチャウ
- ゴードンセッター
- ボーダーコリー
- ローデシアンリッジバック
- グレートデーン
- ドーベルマン
最も痛み感受性が低い(痛みに強い)犬種
- ロットワイラー
- ボクサー
- ブルドッグ
- ゴールデンレトリーバー
- マスティフ
- ラブラドールレトリーバー
- アメリカンスタフォードシャーテリア
大型犬であってもジャーマンシェパードやシベリアンハスキーのように痛みに敏感な犬種がいること、番犬や闘犬に使われる犬だけが痛みに強いわけではないことなどが分かりますね。
まとめ
犬種と痛みの感受性について獣医師へのアンケート調査という形で行ったリサーチの結果をご紹介しました。
また一般の人々が犬の痛みの感受性について固定観念を持っていることも明らかになりました。
愛犬が何らかの痛みを抱えている時に判断を誤らないためにも、間違った固定観念にとらわれないようにしなくてはいけないと肝に銘じました。
《参考URL》
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0230315