単独行動の犬、グループ行動の犬を比較研究
私たちにとって犬という動物は、基本的には人間に飼育されているペットまたは使役動物であるという認識が強いものです。
しかし世界中に存在する犬の約4分の3は一般的に「野良犬」と呼ばれる野放しの犬たちです。野良犬たちのほとんどは食物が簡単に手に入る人間の居住地の近くに住んでおり、住んでいる人間と相互に関わり合うことが知られています。
また野良犬たちは家族が一緒に暮らしていることが多く、群れのメンバー同士で助け合いそれぞれの役割を果たしていることも知られています。
インドのコルカタにあるインド科学教育調査研究所では過去10年間にわたってインドの野良犬の行動を研究して来ています。
同研究所では、単独で行動している犬とグループで行動している犬とでは、人間との関わり方にどのような違いがあるのかを調査し、その結果を発表しました。
友好的な人間、脅威的な人間、犬たちの反応を見る実験
研究者はグループ行動の犬に対して、3種類のアプローチで近づき犬の反応を観察するという実験を行いました。単独行動の犬による人間への反応に関しては、以前に行った研究結果が引用されました。グループ行動の犬については西ベンガル地方で80例の実験を行いデータが集められました。
3種類のアプローチは次のようなものです。
- 友好的なアプローチ かがんで腕を伸ばし犬を呼ぶ
- 脅威度の低いアプローチ 犬を追い払う時のシッシッという両手を振り上げる動作をする
- 脅威度の高いアプローチ 棒を振り上げて見せる
それぞれのアプローチで犬が実験者に近づいてくると鶏肉を与えます。一連の様子がビデオ撮影され、犬が実験者を見つめた時間、与えられた鶏肉を食べるのに費やした時間などが分析されました。
単独の犬とグループの犬、1番の大きな違いとは
犬たちの行動の分析の結果、分かったのは以下のようなことでした。
- 友好的なアプローチでは、単独の犬よりもグループの犬の方が実験者を長く見つめていた
- 友好的なアプローチでは、単独の犬よりもグループの犬の方が実験者に近づく割合が高かった
- 友好的なアプローチでは、他の方法よりも犬が実験者と長い時間を過ごし、より早く食べ物を獲得した
- 低脅威のアプローチでは、友好的な場合とほとんど同じであるが見つめたり側にいる時間は短かった
- 高脅威のアプローチでは、単独でもグループでも犬は怖れて近寄らず目も合わせなかった
- 高脅威のアプローチで食べ物を提供すると、単独の犬は近づかなかったがグループの犬は近づいて食べた
実験の分析結果から、グループの犬は単独の犬よりも行動に自信を持っていることが伺えました。また食べ物を食べるのはグループの中の1匹の犬だけだったことも観察されました。犬のグループ内にメンバー間の確立されたランクはありませんが、この行動は何らかの階層を示していると研究者は考えています。
研究者はまた、自分の行動に自信を持った犬のグループに恐怖を感じる人もいるかもしれないと述べつつ、調査中に多数の犬と接触したにも関わらず攻撃的な行動にはほとんど遭遇しなかったとしています。
グループで行動する犬は自信がある為、人間を攻撃するというリスクのある行動をわざわざ取ることはないのかもしれません。いずれにせよ、犬は自分が単独でいるか、グループのメンバーと一緒であるのかに応じて、人間からのアプローチに対する反応が異なることが確認されました。これは犬が人間の行動に非常によく適応していることを示しているとのことです。
まとめ
インドの野良犬と呼ばれる犬たちが、単独でいる時とグループでいる時の人間に対する行動の違いについてのリサーチ結果をご紹介しました。
たとえ野良犬であっても、犬は野生動物と違って人間と社会的に深く関わっていることが分かります。またグループの仲間の存在が彼らに自信を与えているというのも、犬が社会的な動物であることがよくわかる興味深い点ですね。