エアデールテリアに発生した重症の肺疾患
2007年フィンランドで、生まれたばかりのエアデールテリアの子犬が生後数日前後で呼吸困難を起こして命を落とす症例が相次いで報告されました。
出生後早いものでは4〜18時間、多くは1〜4日、最大でも4週間で呼吸困難や頻呼吸を発症して亡くなってしまうという痛ましいものでした。同胎の子犬のうち数匹が亡くなった例もありました。
このようにして亡くなった25匹の子犬がフィンランドの食品安全管理局に送られ、全ての子犬の病理解剖が行われ、主な病変は肺であったことが分かりました。
亡くなった子犬の肺の液胞は正常に成長せず、呼吸に必要な肺表面活性物質を生成することができない状態でした。
肺疾患に関連する遺伝子の研究
これらの子犬の血統を確認したところ、この重篤な肺疾患が遺伝性のものであることがすぐに分かりました。フィンランドのヘルシンキ大学獣医学部の研究者はゲノムワイド解析と全エクソーム解析を組み合わせたアプローチによって、この疾患の原因となるのはLAMP3遺伝子の欠陥であることを突き止めました。
この遺伝子は呼吸に必要な肺表面活性物質を形成する液胞の膜で正常に機能するタンパク質を生成します。また研究者はこの遺伝子欠損について、300近くの犬種約7000匹の犬のスクリーニングを行いました。その結果、これがエアデールテリアにのみ見られるものであること、エアデールテリアの5分の1がこの欠損のキャリアであることが判明しました。
将来的には、遺伝子検査を使ってキャリアを特定することができるため、繁殖に使う犬を選ぶことで回避することが可能になるということです。
人間の新生児の呼吸器疾患との関連
この新生児肺疾患は犬だけに特有のものではありません。肺表面活性物質の形成における同様の疾患は人間の新生児にも発病します。犬の場合の疾患に関連する遺伝子が特定されたことから、人間の場合の候補遺伝子を特定する手がかりとなると考えられます。
LAMP3遺伝子はこれまで病気と関連づけて考えられていなかったため、人間の新生児の呼吸器疾患に置ける役割にはさらなる調査が必要だということです。また1つ、犬の遺伝子研究が人間の病気の候補遺伝子特定の手助けとなる例が増えたようです。
まとめ
フィンランドのヘルシンキ大学の研究者が、エアデールテリア特有の重篤な肺疾患に関連する遺伝子の欠陥を特定したという研究をご紹介しました。
病気に関連する遺伝子が特定されたことで、遺伝子検査を使って注意深く繁殖を行えるようになります。せっかく生まれて来たのに数時間〜数日でこの世を去ってしまうという悲しい子犬がいなくなる〜さらには病気の撲滅につながるというのは非常に心強いことですね。
《参考URL》
https://www.helsinki.fi/en/news/health-news/a-gene-defect-associated-with-a-severe-canine-lung-disease-identified-potential-link-with-pulmonary-issues-occurring-in-newborn-infants
https://journals.plos.org/plosgenetics/article?id=10.1371/journal.pgen.1008651