「うちの犬は分離不安なんです」という認識の誤り
留守番中に吠え行動がひどかったり、トイレの失敗が増えたり、家具などを破壊してしまったり、このような一連の行動が「分離不安」と呼ばれることは珍しくありません。しかし、先ごろイギリスのリンカーン大学の獣医行動学の研究チームによって発表された研究では、分離不安というのは単一の状態ではなく、様々な原因と違う形をとる「症候群」であるとしています。
身体的な状態に例えると「腹痛」という状態には、様々な異なる原因と症状があります。「腹痛」が医学上の診断名ではないのと同じく「分離不安」も獣医行動医学において診断名にはなりません。犬が飼い主と離れているときに望ましくない行動をすることを「分離不安」と分類することは、「診断という結論」ではなく、多様な診断プロセスの始まりであると研究者は述べています。
飼い主と離れた犬が示す苦痛の形態
一般に「分離不安」と呼ばれる症候群についてデータを収集するため、研究チームは2014年11月から長期に渡って、一般の飼い主へのアンケート調査を継続しています。アンケートはオンラインで行われ、ケネルクラブ、ドッグトレーナー、動物病院、ソーシャルメディアなどを通じて参加者が募集されました。
犬が12週齢以上で、少なくとも1か月以上飼育していることが参加の条件です。こうして100犬種以上、2700匹以上のデータが集められました。
データを分析していくと、飼い主から離れたときに犬が示す苦痛の形態は大きく次の4つに分けられることが判りました。
- 家の中の何かから離れたいというフラストレーション
- 家の外の何かのところに行きたいというフラストレーション
- 物音や出来事に対する過剰な反応
- 退屈
表面に出てきた問題行動は同じように見えても、その原因となる犬の欲求不満には様々な形があるということです。単純に「破壊行動をする犬にはこのような対応を」「吠え行動がひどい犬は飼い主への依存が強過ぎる」というようなものではないとのことです。
飼い主と離れたときの犬の問題行動の背後にあるもの
犬が飼い主と離れているときに何か望ましくない行動をする場合、その背景には「犬の気質」「犬と飼い主との関係」「生活環境」など複数のリスク要因があり、それらが組み合わされて行動の原因となっています。犬により良い治療を提供するためには、犬の行動に注目するのではなく、行動の背後にある多様な欲求不満を理解する必要があるとのことです。
同研究チームは、犬と飼い主の関係が、留守番中など分離時の問題行動に対して与える影響を今後より詳細にリサーチしていく予定だということです。そのリサーチ結果が、分離時の犬の問題行動についての新しい治療プログラム開発につながることが期待されています。
まとめ
イギリスのリンカーン大学の獣医行動学の研究者が発表した、犬の「分離不安」についてのリサーチについて、さわりの部分をご紹介しました。分離不安と呼ばれる一連の問題行動について、表面上は同じ行動に見えても、背後にはそれぞれに多様な種類の欲求不満が影響しているということを、飼い主が知識として持っておくことは大切です。
留守番中に起きる望ましくない行動を「うちの犬は分離不安だから」と結論づけるのではなく、「うちの犬は分離不安という名の症候群を持っている。犬が何に対して欲求不満を感じているのか振り返って考えてみよう。」というプロセスの始まりにすること。
これだけで犬への対応に違いが生まれるであろうことが想像できますね。今後のさらなる研究によって、飼い主向けの具体的なプログラムが生まれることにも大いに期待が寄せられます。
《参考URL》
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2019.00499/full