犬の問題行動についての最大規模のアンケート調査
「問題行動」と呼ばれる人間にとって望ましくない犬の行動は、犬が保健所などに捨てられたり、殺処分になってしまったりするリスクが高くなる、社会的な問題と動物福祉の低下の問題をはらんでいます。
フィンランドのヘルシンキ大学の遺伝学の研究者チームは、家庭犬の8つの望ましくない行動特性について大規模なアンケート調査を行いました。研究者チームはフィンランドの犬種クラブ、そしてソーシャルメディアを通じて世界中の飼い主に呼びかけて、愛犬の行動を8つの不安関連の特性について評価するよう求めました。
8つの不安関連行動とは以下の事柄です。
- 花火や雷など大きな音を怖がる騒音感受性
- 犬、人、物などに対する一般的な恐怖
- 高い所やツルツルした床面などへの恐怖
- 飼い主や周囲に対する無関心
- 活動過多および衝動性
- 前足をしつこく噛む、尻尾を追うなどの強迫行動
- 攻撃性
- 分離不安
呼びかけの結果、犬の研究史上でも最大規模の264犬種13,715件の回答が集まりました。信頼性を高めるため、研究者は200匹以上の回答があった14犬種に限定して比較分析を行いました。
7割以上の犬が何らかの不安関連行動を示していた!
集まった回答全体では、すべての犬の72.5%が少なくとも1種類の不安関連行動を示していたということです。中でも最も多かったのは花火や雷など大きな音を恐れる「騒音感受性」で、32%の犬に見られると回答されました。騒音感受性は犬が年を取るほど強くなり、特に雷の音に敏感になるとのことでした。
2番目に多かったのは犬・人・物などに対する恐怖で、17%の犬は他の犬を恐れ、15%の犬は知らない人を恐れ、11%は新しい状況を恐れるという回答でした。
高い所や床面への恐怖は23%、無関心は19%、強迫行動は17%、活動過多・衝動性は16%、攻撃性は14%、そして一番少なかったのが分離不安の5%でした。
ただし、上記の数字は過去の他の行動研究の結果とかなり違っていることが指摘されています。研究者はこの点について、アンケート調査では問題行動の頻度についてのみ質問し、深刻度に関する質問がなかったことから、これらの割合の解釈に注意が必要だと述べています。
特定の犬種に特定の行動特性
研究者は、特定の犬種に特定の不安関連行動が集中していることも発見しました。
騒音感受性はロマーニャウォータードッグ、ウィートンテリア、雑種犬に多く見られました。一般的な恐怖が最も多く見られたのはスパニッシュウォータードッグ、シェトランドシープドッグ、雑種犬でした。ミニチュアシュナウザーの約10%は知らない人を怖がり、かつ攻撃的でした。恐怖と攻撃性は過去の研究からもしばしば共存していることが確認されています。
ラブラドールレトリーバーでは、知らない人への恐怖や攻撃性はほとんど見られませんでした。
これら犬種特有の不安関連行動は、遺伝的な要素を示唆していると研究者は述べています。2019年の研究ではジャーマンシェパードの社会性に関連する遺伝子は、同時に高い騒音感受性にも関連することが分かっています。このような異なる特性が同じ遺伝子に関連している例は他の犬種でも見られる可能性が高いと考えられます。
研究者は、人間は社会性の高い犬を選択育種することによって、意図せずに騒音に敏感な犬を選択してきた可能性を示唆しています。
今回の研究からは少しそれるのですが、上記の犬種特有の行動に雑種犬が入っていますが、これは特定の犬種の雑種犬を指しているのではなく、一般的な意味での雑種犬のことです。このような雑種犬は保護施設出身の犬が多く、その場合は環境から来る不安関連行動を持っていたことも考えられます。
まとめ
犬の不安関連行動が犬種によって特徴的であることから、それらが遺伝的なものである可能性を示した研究結果をご紹介しました。
このような行動研究の目的は犬の福祉を向上させることです。人間にとって望ましくない行動は犬が強いストレスを感じている結果であり、またその行動自体がストレスになる可能性もあります。最悪の場合は飼い主が犬を手放し、殺処分になってしまうことも考えられます。不安関連行動が遺伝と関連するなら、注意深く適切な繁殖によってそのような望ましくない行動の発言率を下げることができます。
人間は長い歴史の中で人間の都合に合わせて犬を選択育種してきました。そして現在、その弊害がたくさん現れてきており、犬たちが負担を引き受けています。このような研究が進むことで、人間の都合ではなく犬のための選択育種が広く行われるようになることを強く願います。
《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41598-020-59837-z