犬の消化器疾患と腸内細菌の相互の関連を探る研究
犬の消化器の病気は、一般的でありながら決定的な治療法がないものも多く、犬と飼い主さんの両方を悩ませています。
このたびアメリカのテキサスA&M大学獣医学科の研究者によって、疾患のある犬の消化器と健康な犬の消化器での、腸内細菌が住む環境(宿主の消化器内)から受ける影響と、腸内細菌が消化器に及ぼす影響、この相互作用についての研究結果が発表されました。
この研究での新しい発見は、犬と人間の両方の消化器疾患の新しい治療法の開発に貢献する可能性があるとのことです。
全く異なる2種類の消化器疾患の共通点発見
腸内細菌は、宿主に影響を与える代謝産物を生成します。犬の便にはこれらの腸内細菌が代謝した物質が含まれます。消化管の状態が異なる犬の便の中の代謝産物のレベルを測定することで、腸内細菌が宿主が病気のときの環境と健康なときの環境でどのように作用するかを調査しました。
研究者は健康な犬34匹、慢性腸症の犬15匹、膵外分泌不全の犬36匹の便サンプルから便の中の乳酸と二次胆汁酸のレベルを測定しました。二次胆汁酸とは、肝臓で合成される一次胆汁酸が腸内細菌によって酸化されたものです。乳酸とともに消化器疾患では重要なものです。
慢性腸症は一般的に犬の「炎症性腸疾患(IBD)」と呼ばれることが多いものですが、人間のIBDとは違う点があるため、ここでは慢性腸症という言葉を使っています。膵外分泌不全とは膵臓から消化酵素が分泌されなくなり、食物の消化がうまくできず栄養が吸収されなくなる疾患です。どちらも症状の一つに下痢があります。
測定の結果、慢性腸症と膵外分泌不全の犬で便中の乳酸のレベルが高く、二次胆汁酸のレベルが低いことが分かりました。これら2つの病気は症状も原因も全く異なるのですが、腸内微生物叢の細菌が代謝する物質やその量が似ていることから、異なる2つの消化器疾患の類似性が明らかになる可能性があります。
腸内微生物叢の研究から新しい治療法の可能性
犬の腸内微生物叢の細菌が代謝した産物に注目することで、腸内に存在する細菌のタイプだけでなく、これらの細菌が環境(宿主の腸内)と相互に影響を与え合う方法が分かる可能性があります。
例えば、同じ種類の細菌が宿主の健康状態に応じて違う代謝産物を作り出す可能性があります。つまり健康な犬の腸内細菌は消化器疾患を持つ犬の腸内細菌とは違う物質を作っているのかもしれないということです。
この微生物叢と宿主との相互作用についての研究を深めることで、微生物叢を健康な宿主と同じ状態にし、宿主である犬の病気を治療できる可能性があるとのことです。
現在、慢性腸症も膵外分泌不全も特効的な治療法はありません。腸内細菌叢をより深く理解することで新しい治療方法の開発が期待できます。今回の研究の発見は、人間の膵外分泌不全、炎症性腸疾患(IBD)、クローン病などの消化器疾患の治療にも関連する可能性があります。
まとめ
特定の消化器疾患を持つ犬の腸内細菌が代謝する物質を測定することで、異なる病気の類似性が発見され、新しい治療方法の手掛かりになる可能性があるという研究についてご紹介しました。
腸内細菌が健康にとって重要な役割を果たしていることは私たちも何となく分かっていますが、細菌が果たす役割は今まで考えられていた以上に大きいもののようです。
この研究によって新しい治療方法が開発されれば、犬や人間の体への負担が少ないものになることが期待されるようです。犬にとっても人間にとっても心強いことですね。
《参考URL》
https://www.sciencedaily.com/releases/2019/11/191106124100.htm
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0224454