恐ろしい炭疽菌が治療に役立つとは?
アメリカのパデュー大学の生化学および細胞生物学の科学者が、炭疽菌を使って犬の膀胱癌の治療を行い、良好な結果を出していることが報告されています。
炭疽菌は毒素を放出して皮膚に潰瘍を作り、肺炎、筋肉および胸部の痛みを症状とする炭疽症を引き起こします。さらに炭疽菌は生物兵器としての利用の歴史でも悪名高いため、大変恐ろしいものとして印象付けられています。
しかし、この恐ろしい炭疽菌が膀胱癌の治療に役立つというのはどういうことなのでしょうか。
炭疽菌がガン細胞だけを狙い撃って排除
研究者は膀胱癌の細胞の表面に存在するEGF受容体にくっつくEGFタンパク質を持つよう炭疽菌を改変しました。この改変した炭疽菌の薬剤を膀胱内に直接投与して治療を行います。
膀胱には独自の保護層があり、これによって膀胱内の正常な細胞は炭疽菌から保護されます。ガン細胞の表面のEGF受容体が炭疽菌のEGFタンパク質と結合すると、ガン細胞が炭疽毒素の影響を受けてアポトーシスと呼ばれる細胞死に至ります。正常な細胞は影響を受けないというのは、副作用の少ない治療法であることを示しています。
もう打つ手がないと言われた膀胱癌の犬の治療を開始
次の段階では、採取した細胞で結果を確認するだけではなく、実際に膀胱癌にかかっている犬の治療に取り掛かりました。パデュー大学獣医病院で診察を受けている膀胱癌の犬たちのうち、従来の抗ガン剤治療が効果を現さず、他に打つ手のなかった6匹が対象となりました。
カテーテルを使って膀胱に直接薬剤を投与する方法で2〜5回の治療を行った後、犬たちの腫瘍は平均30%縮小したことが確認されました。他に打つ手がなくなり腫瘍がかなり大きくなっていたことを考慮すると、これは特筆すべき結果と言えます。
また、他の副作用は引き起こされませんでした。従来の抗ガン剤の副作用と比較しても、これは大変大きなメリットだと言えます。
研究者は今後他の種類のガンにも治療を拡大し、最終的には人間のガンの治療に炭疽菌を利用したいと考えているそうです。現行の膀胱癌の治療は1回に数時間がかかる患者に負担の大きいものですが、この方法では数分に短縮できるというメリットもあるそうです。
まとめ
アメリカで炭疽菌を使った膀胱癌の新しい治療方法が開発され、膀胱癌を患っている犬たちの治療に良い結果を出していることをご紹介しました。
ガンは常に犬の死因の上位を占めている厄介な病気ですので、新しく効果的な治療方法が開発されるというのは心強いことです。治療そのものの負担も副作用も少なく、確実に効果を見せているこの治療法が、一日も早く実用化されてほしいと思います。
《参考URL》
https://theconversation.com/anthrax-vs-cancer-researchers-harness-the-deadly-toxin-to-cure-dogs-and-hopefully-people-128279
https://www.purdue.edu/newsroom/releases/2019/Q4/anthrax-may-be-the-next-tool-in-the-fight-against-bladder-cancer.html