犬の行動を研究するためにオオカミを観察
犬とオオカミの行動を比較する研究は、世界各国の様々な科学者によって行われています。同じ祖先を持ち、オオカミは野生のまま、犬は家畜化された生き物ですので、行動の似ている点や違う点を比較することで、犬の行動がどこから来ているのかを知る手掛かりとなり、それが犬の福祉にもつながります。
ここでご紹介するのは、スウェーデンのストックホルム大学の動物学者による研究です。研究チームは、家畜化が犬の行動に与える影響を調査するためオオカミと犬の仔を飼育し、行動を評価するために設計されたテストを使って、3組の同腹の仔オオカミの行動を査定しました。
研究者を驚かせたオオカミの仔の「モッテコイ」
テストに参加したのは、それぞれに母親の違う3組の同腹のオオカミの仔13匹でした。
一連のテストには実験者がボールを投げて、それを持ってくるように声をかけるモッテコイ遊びが含まれていました。犬と暮らしている方なら分かるように、多くの子犬は特に訓練をしなくても投げられたボールに興味を示します。ボールを投げた人間が手を叩いたり、高い声で「持って来て!」と声をかけたりすると、もう一回投げてもらうためにボールを咥えて持ってくる子犬も少なくありません。
これは投げられたボールを取りに行くという遊びを続けるためには次にどうすれば良いのかを、犬が人間によって与えられた合図から理解したことを示します。
このような人間との社会的コミュニケーションを理解する認知能力は家畜化された犬においてのみ発生したという仮説が立てられています。
ところが、今回のリサーチのためのテスト中に3匹の8週齢のオオカミが自発的にボールに興味を示し、実験者が合図を出すと咥えて持って来て人間に渡しました。オオカミと実験者はこのときが初対面でした。
3組のオオカミたちのうち、最初にテストした2匹の母親から生まれた組のオオカミたちはボールを持ってくる以前に、ボールにほとんど興味を示さなかったと言います。それは研究者たちの予想していた通りでした。3組目のオオカミたちのうち3匹が上記のように「モッテコイ」を完全に実行できたことは研究者たちにとって大きな驚きで、見た瞬間に鳥肌が立ったと述べています。
「モッテコイ」ができるオオカミの存在が意味すること
モッテコイのような人間との社会的コミュニケーションのための認知能力は、家畜化された犬にのみ発生していると仮定していたのに、それが目の前で覆されたというわけです。
研究者はこのことについて、飼いならしの初期段階で人間と社会的コミュニケーションを取ることができるオオカミが人間によって選択され、家畜化の過程でさらに選択繁殖されていった可能性を指摘しています。
確かに人間とコミュニケーションできる少数のオオカミを選んで飼いならしていったという説は理に適っています。研究者はさらに犬とオオカミの行動の違いと類似性を調査するために、オオカミと犬を今後3年間、同じ条件で飼育してデータを収集していくそうです。
まとめ
オオカミと犬の行動を比較研究している動物学者が、犬にしかできないと思われていたボールをレトリーブするモッテコイ遊びができるオオカミがいることを発見したという調査結果をご紹介しました。
犬がどのように人間と暮らし家畜化されていったのかはたくさんの研究が行われていますが、まだまだ未知の部分も多いそうです。それだけに現代のオオカミの中に犬とよく似た行動をする個体がいるというのは興味深くロマンも感じられますね。今後のさらなる研究結果の発表が楽しみです。