犬と暮らすことでもたらされる健康上のメリット
過去の数多くの研究で「犬と暮らしている人は心臓疾患に罹る率が低い」「犬と暮らしている人は心臓発作や脳卒中の発作後の生還率が高い」「幼少期にペットと暮らしていた人はアレルギーの発症率が低い」など、犬との暮らしが人間に健康上のメリットをもたらすことが明らかになっています。
そしてこの度、幼少期に犬と暮らしていた人は成人後に特定の精神疾患の発病率が低いという研究の結果が発表されました。この論文の筆頭著者はアメリカのジョンズ・ホプキンス小児病院の小児神経ウイルス学のロバート・ヨーケン博士です。
犬を飼うことと精神疾患になぜ関連があるのか?
ヨーケン博士はこの研究を行うことにした理由を次のように説明しています。
「統合失調症や双極性障害などの重篤な精神疾患は幼少期にどのような環境に曝されたかによって影響される免疫系の変化と関連しています。家庭のペットは多くの場合、子供が身近に接触する最初のものであるため、この2つの関係を調査することは理に適っていると考えました。」
家庭にペットがいることで環境が変化する要因は次のようなものが考えらえます。
- 人獣共通のバクテリアやウイルスとの接触
- 家庭内の微生物叢の変化
- ペットによるストレス軽減効果
このような環境の変化が免疫系にも影響を与え、様々な健康上の変化をもたらしています。この免疫系への影響が、遺伝的またはその他の素因を持つ精神疾患を発病するリスクに関連するかもしれないというのが、この調査研究の発端です。
幼少期の犬との暮らしと統合失調症
調査は18歳から65歳までの1371人の男女を対象に実施されました。統合失調症を患っている人396人、双極性障害を患っている人381人、比較対象として現在と過去に精神疾患の病歴のない人594人です。
全ての人に対して、生後12年の間に犬または猫、あるいは両方を飼っていたかどうかが質問されました。質問はもちろん他にも多くの項目があったのですが、このペットに関する回答と統合失調症の関連は研究者にとっても驚くものでした。
生後12年間に犬と暮らしていた人は統合失調症と診断される率が24%も低かったのだそうです。双極性障害に関してはペットの有無による大きな変化は見られませんでした。
また猫を飼っていたという場合にも変化は見られず、犬と統合失調症の間にのみ有意な関連が見られたということです。中でも出生から3歳までの間に犬と暮らしていた人の疾患の率が特に低かったそうです。
研究者は結論を出すにはさらに研究が必要であるとしていますが、犬の体の微生物叢に含まれる何かが人間にも伝染し、統合失調症に対する素因を抑制する、または抑制するための免疫システムを強化するのではないかと推測しています。
まとめ
出生から12年の間に犬と暮らしていた人は、成人してから統合失調症と診断される率が低いことが分かったという調査研究の結果をご紹介しました。
今後さらに詳しい研究が必要ですが、犬の存在が統合失調症という疾患の予防と治療の戦略に役立つとすれば心強いですね。それにしても人間は犬という生き物に対して本当に頭が上がらないなあとしみじみと感じ入りました。
《参考URL》
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0225320