犬の死亡原因1位であるガンの研究
犬の死亡原因の中で長年にわたり1位の座にあるのは様々なタイプのガンです。アメリカの統計によると3匹のうち1匹が生涯のうち何らかのガンを患うとも言われています。
いくつかの純血種では特にこの傾向が高いとされています。
長い間、犬のガンの治療は手術で悪い部分を取り去って抗ガン剤などの化学療法もしくは手術できなければ抗がん剤や放射線治療などを行うというものでした。
しかし近年、犬のガン治療研究が人間のガンに関する問題を解決することにつながるかもしれないと研究者が認識したため、状況が変わりつつあります。
従来のガン治療研究は、人為的にガンを作り出した実験用マウスを使って行われるものが主でしたが、近年のガン研究ではガンを罹った家庭犬の治療を通じて行われていることがあります。
ペットの犬は人間と同じ空間で暮らし、同じ水を飲み、同じ空気を吸って生きており、家庭犬のガンは人間の場合と同じように自然に発生します。さらに犬はマウスよりも人間との生物学的な共通点が多くあります。これらがガン治療の研究において家庭犬を使った臨床試験が増加している理由です。
アメリカでは犬のガン治療研究が一種のブームに
「人間のガン治療法の開発」という大きな目標のために、犬のガンの新しい治療法を探る研究はアメリカ国立衛生研究所や各製薬会社などの支持を得て行われています。
アメリカ国立衛生研究所の一部門である国立ガン研究所は、数種類の犬のガンに対する免疫療法の研究のために、日本円にして約12億円の助成金を提供しています。
この助成金は6つの大学の獣医学部が受けており研究が進められています。さらに製薬会社も大学など研究機関への資金提供や技術提携を後押ししているため、犬のガン治療はブームとも言える状態になっています。
研究が数多く行われているだけでなく、研究されている治療方法が高度で洗練されたものになっているのも注目されている点です。これらの研究は、一般の飼い主が研究プログラムへの参加に応募して、病気の犬が臨床試験を受けて行われています。試験によって行われる治療は無料で提供されます。
マウスを人為的に病気にして実験するのではなく、病気の犬を治療することで研究を行うというのは人道的にも大きな意味のあることですね。
犬のガン治療研究、現時点での成果
これらの研究の成果として、犬用の新しい抗ガン剤がいくつか開発製造されています。2017年に米国食品医薬品局は犬の悪性リンパ腫のための抗ガン剤Tanovea-CA1を承認し、実用化されています。
犬に多く見られる骨肉腫のためのワクチンが開発中で、米国農務省によって条件付きで承認されています。実用化はまだですが、ウィスコンシン大学、アリゾナ大学、カリフォルニア大学デイビス校が血管肉腫や肥満細胞腫など複数の種類のガンを対象にしたガン予防ワクチンを共同開発中です。
治療薬だけでなく治療技術や診断ツールも新しく開発されています。ウィスコンシン大学マディソン校は腫瘍の周辺の組織を傷つけずに標的だけに到達する放射線技術を、副鼻腔内腫瘍の犬を通じて開発しました。
犬の膀胱ガンは結石や尿路感染症と誤認される例があるのですが、ノースカロライナ州立大学は尿検査でガンのスクリーニングを行う技術を開発しました。
タフツ大学では犬の骨肉腫細胞のDNAを配列決定しました。ガンの遺伝情報が増えていくことによって、より効果的で毒性の低いガン治療の開発につながることが予測されています。
まとめ
犬のガン治療の研究が数多く行われ新しい治療や予防の方法が開発されていること、それは人間のガン治療への応用が大いに期待できるからであることをご紹介しました。
ガンの診断が下りても希望が持てること、将来への不安が少しでも小さくなることは、愛犬を持つ身にとってはとても嬉しいですね。
ガンに限らず、ほかの疾患でも犬の治療研究が人間の役に立っている例はたくさんあります。犬はどこまでも人間のパートナーなのだと改めて感じ入りますね。
《参考URL》
https://www.scientificamerican.com/article/good-news-for-dogs-with-cancer/