動物にとっての「数」の感覚
私たちは、ふと目に留まった鳥の集団を「鳥が5〜6羽いる」とか、カゴに入った果物を「ミカンが5個くらいリンゴが3個くらいある」という風に、感覚で瞬間的に「何個くらい」と捉えることができます。
これは動物の場合も同じで、肉食動物であれば近づいてくる獲物の数、植物を食べる動物なら木の実の数など、目に入った物体の量を迅速に推定する機能を持っています。
この感覚機能を使うには訓練は必要ないこともわかっています。この度アメリカのエモリー大学の研究者が、犬が数の感覚機能を使う時、人間の場合と同じ脳の部位を使っていることが分かったと発表しました。
MRIを使って、犬の「数」に対する反応を観察
この研究の主著者であるグレゴリー・バーンズ博士はMRI(磁気共鳴画像)を使って犬の脳を観察するプロジェクトの第一人者です。
犬が自発的にMRIの装置の中に入り拘束や麻酔なしで動かないでスキャンできるよう訓練をして、犬の脳の働きについて様々な研究を発表しています。
バーンズ博士のプロジェクトでは、拘束されるストレスや麻酔や鎮静薬で脳が正常に働いていない状態では分からない多くのことが明らかになっています。
今回の研究では様々な犬種の11匹の犬が実験に参加しました。犬たちは数に関しては事前に訓練は何も受けていません。MRI装置に入った犬は、モニターに映し出される色々な数の丸を見せられます。
一定の数の丸を見た後に、丸の数が増えたり減ったりした状態を見ている犬の脳がMRIによってスキャンされます。11匹の犬のうち8匹が丸の数が変わった時に頭頂皮質でより大きな活性化を示しました。
これは過去の研究で人間が概数の感覚能力のために利用することが分かっている部位と同じであることを示しています。つまり犬も瞬時に「だいたい何個くらい」という判断を行う時、人間が使うのと同じ脳の部分を働かせているということです。
この研究実験からわかることと研究の意味
人間と犬の脳の神経メカニズムを理解し比較することで、長い時間の中で脳がどのように進化してきて、どのように機能しているのかがわかります。
今回の研究で明らかになった犬の脳の働きは、人間で言えば8000万年前の状態。言い換えれば現在の犬の脳から約8000万年分の進化を遂げたのが人間の脳であるということだそうです。
人間は微積分や代数など複雑な計算をできるように進化したわけですが、そこには犬など他の動物と共有する数多くの基本的な能力があります。このような神経メカニズムを理解することで、脳の異常の治療や人工知能システムの改善などにつながる可能性があるとのことです。
まとめ
MRI装置に入った犬に様々な異なる数の丸が映し出されたモニターを見せて脳をスキャンする実験で、犬の脳が瞬時に数を把握する時、人間と同じ部分を使っていることが分かったという研究結果をご紹介しました。
科学によって色々なことが明らかになるにつれ、犬と私たち人間には今まで考えられていたよりもずっと多くの共通点があることが分かってきています。
将来もっと研究が進めば、犬の脳つまり犬の感覚や感情などももっと分かるようになるのだろうかと思うとワクワクと嬉しい気持ちになりますね。
《参考URL》
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsbl.2019.0666