パピーミルの犬たちの真実を伝える書籍
2019年10月、アメリカで「RESCUE DOGS」という書籍が出版されました。書籍の内容は、俗にパピーミル(子犬工場)と呼ばれる大規模な犬の繁殖施設で、繁殖に使われている犬がどんなに酷い状態を強いられているか、ブローカーやペットショップの手に渡った犬がどんな経路で取引されるのかなどが詳細にレポートされています。
このような類の書籍は過去にもたくさんありますが、この本がそれらと大きく違っている点は、著者が18年に渡ってパピーミルに潜入してアンダーカバーと呼ばれる覆面捜査を行っていることです。著者名はピーター・パクストンとされていますが、これはもちろん偽名です。
犬の繁殖施設や悪質なペットショップを取材して、記事や書籍を書くことももちろん意味のあることですが、業者の違法行為の証拠を集めるために実際に内部に入って捜査した人の記録は多くの人の目に触れるべき情報がびっしり詰まっています。
パピーミルに潜入しての覆面捜査
身分を偽って組織に潜入し覆面捜査を行うと聞くと、映画や小説の中で見聞きする麻薬捜査官などのようですね。そのような麻薬捜査官と違って、パピーミルの捜査員は政府や法執行機関が派遣しているのではなく、民間の非営利団体(NPO)で働く人であったり、団体と契約したフリーランスの人であったりします。
捜査を行うNPOの代表的なものは、アメリカ最大の動物保護団体の一つであるHumane Society U.Sや、パピーミルやキティファクトリーと呼ばれる繁殖施設やペットショップの捜査を専門に行っているコンパニオンアニマルプロテクション協会があります。書籍の著者パクストン氏も、これらの団体からの依頼で捜査を行っています。
パクストン氏の場合、従業員として雇用されることで内部に入って調査を行い、犬たちが受けている扱いについて写真やビデオを撮ったり、重要な書類や文書を撮影したりして証拠を集めます。
アメリカにおける犬や猫の繁殖施設は、米国農務省の管轄で、営業の許可、施設の査察、違反した場合の処罰なども農務省が行います。農務省自体の捜査官もいるのですが、全国に何千とある繁殖施設全部には手が回り切らず、違反があっても見過ごしているのが現状です。
NPOによる潜入捜査で集めた証拠は、農務省またはその他の法執行機関に提出され、合法的に裁かれるよう手配するのが捜査員の仕事です。
18年間で700以上のパピーミルに潜入して捜査をしてきたパクストン氏は、他の従業員や経営者に怪しまれたり警察を呼ばれたり拘束されたことも何度もあるそうです。そのように苦労して摘発をしても、経営者や企業は軽い処罰しか受けなかったり、捜査から数年後に施設を見に来ると何も変わっていなかったりして、失望することも度々あると言います。
しかし、捜査のおかげで悪質な繁殖施設を合法的に閉鎖したり、繁殖に使われていた犬たちがレスキューされたりして暖かい家庭に送り出されるのを目にすることは、大きな報酬であるとも述べています。
外国の話だけどパピーミルは他人事ではない
パピーミルやキティファクトリーに潜入捜査をして悪質な業者を合法的に淘汰させるとは「アメリカってすごいな」と驚きますね。しかし、アメリカという国は動物福祉に関して決して進んでいるとは言えません。実際、このような捜査員が存在していても、パピーミルは後を絶たず、不幸な動物はなかなか減っていきません。
パピーミルや悪質なペットショップという問題の根を絶つためには、一般の人々の意識を変えることが不可欠です。パクストン氏が18年間の経験を書籍にして出版した理由も、人々に情報を届けるためだと述べています。
日本でもペットの繁殖業者や販売業者は第1種動物取扱業者として規制を受け、違反があったり改善命令に従わなかったりする場合には、罰金や免許取消しなどの罰則があります。
しかし、私的な捜査員はもちろん公的な専門の捜査官もいない状態では、違反があっても取り締まれていないのが現状です。
繁殖業者の経営が立ち行かなくなって崩壊した場合などには、一般の人にもその惨状が伝えられることはありますが、犬や猫の商業繁殖施設やオークションで動物たちが受けている酷い扱いについては知らないという人も多いでしょう。アメリカと同じく、一般の人の意識が変わらないことには苦しめられる動物が減ることはありません。
まとめ
アメリカで18年に渡ってパピーミルへの潜入捜査を行ってきた人が、その実態を書籍にしたという話題をご紹介しました。
「アメリカにはパピーミルの覆面潜入捜査をする人がいるんだって」という、ちょっと目を引く話題が、日本でも繁殖施設で苦しんでいる犬や猫がたくさんいるという事実への関心につながればいいなと願います。
《参考URL》
https://www.caps-web.org
https://www.humanesociety.org/horrible-hundred