遺伝子検査サービスで収集したデータを分析
純血種の犬には、各ケネルクラブなどが定めた犬種スタンダードがあり、体のサイズや身体的特徴、毛色などが「あるべき姿」として決められています。
しかし、アメリカのパーデュー大学獣医学部の新しい研究によると、犬種によってはスタンダードでは認められていない毛色や、身体的特徴の遺伝子が隠れて存在していることが示されました。
ごく稀にスタンダードから外れた毛色などを持つ子犬が生まれた場合、それは欠陥や手違いで雑種が生まれたということではなく、隠れた遺伝子が表に出た結果かもしれません。
近年は普通の飼い主が愛犬の遺伝子検査を行うことが一般的になってきており、莫大な数の犬の遺伝子データが蓄積されています。このたびの研究では、そのように商業ベースで集められた遺伝子データを匿名化して分析調査しました。
データは212犬種と4種の野生のイヌ科動物、計11,790匹分を7つの毛色の特性と5つの身体的特徴に関連する遺伝子についてのものです。
犬種スタンダードから外れた遺伝子が隠れていた!
研究者は、それぞれの犬種に関してアメリカおよび国際的な犬種スタンダードを調べて、それぞれの犬種で「あるべき」とされている被毛の色と尻尾の長さを設定しました。
これらの犬種スタンダードと分析した12種類の遺伝子をつき合わせてみると、研究者も予期していなかった多くの情報が見つかったのだそうです。
前述のように、犬種スタンダードでは認められていない被毛の色の遺伝子を持つ犬が観察されました。ロットワイラーやジャーマンシェパードなどでは、チョコレートラブラドールのような毛色は認められていませんが、この毛色の遺伝子が低い頻度ながら観察されたということです。これらの遺伝子を持っていても、その毛色が表に出ないのは対立する遺伝子によって隠されているからだそうです。
毛色だけでなく、他の身体的特徴でも同じことが観察されました。オーストラリアンシェパードのように遺伝的に尻尾なしで生まれてくる犬種は18種類ありますが、そこに含まれない犬種でも、非常に低い頻度で尻尾のない遺伝子変異体を持っている例があることがわかりました。
その犬種のひとつはダックスフンドです。分析結果は、大変低い可能性ではあるけれど、尻尾なしで生まれてくるダックスフンドがいる可能性を示しています。
この研究の意味や目的とは?
研究者はこの研究について「犬種というものがどうあるべきか、またはどうあるべきではないかの判断を下すために行ったのではありません。単に犬種スタンダードに含まれない遺伝子変異体が自然に存在するという事実を示しているのです」と述べています。
その上で、ケネルクラブなどが定めるスタンダードについて「科学に基づいた対話を始めてほしいと思います」と述べ、犬種の定義において実際の遺伝的可能性と比較して取り組む必要性を示しています。
また、ある犬種においてこのような稀な遺伝子が観察されることは、地域的または犬の機能に関する選択育種の影響を明らかにできるということと、稀な遺伝子を共有する犬種間の歴史的なつながりを視覚化することができるという意味があります。
まとめ
犬の遺伝子データを大規模に分析調査した結果、純血種の犬では犬種スタンダードで認められていない毛色や身体的特徴の遺伝子変異体を持つ犬がいることが分かったという研究をご紹介しました。
犬種スタンダードの在り方については、行きすぎた身体的特徴の追求から犬の健康を害している現実が指摘され、見直しされ続けています。
遺伝子に関する研究が進むにつれ「犬の自然な姿」の解釈も広くなっていくのかもしれませんね。
《参考URL》
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0223995