犬を飼うことの「免許」について整理しておこう
ネグレクトや虐待など、痛ましいニュースが流れると「ペットを飼うことを免許制にするべきだ!」という声が上がるのはよく見聞きします。
この場合の免許制というのは、試験や審査を受けて合格した人だけがペットを飼うことができるという、運転免許のような制度をイメージしている方が多いかと思います。
しかし、諸外国で犬を飼うことの免許(ライセンス)と呼ばれるもので試験を受けて合格が要求されるものは、スイスやドイツの一部で初めての飼い主を対象にしたもの、危険犬種と呼ばれる犬の飼育に関してなど限定的で、それも実施している国はごく少数です。
英語ではドッグライセンスという名前で呼ばれることが多いようですが、この場合のライセンスというのは、日本でいう鑑札にとても近いものです。犬を飼うことになった場合、飼い主が自治体に登録してライセンスを交付されるという形式が多いようです。
日本の鑑札は、基本的に最初に登録申請手数料を支払うと犬の生涯に渡って有効ですが、アメリカやカナダの自治体ではライセンスは毎年更新で、そのたびに更新料を支払うという形式が一般的です。国や自治体によってはこの更新料を「犬税」と呼ぶ場合もあります。
イギリスで議論が持ち上がったドッグライセンス
2019年11月、イギリスでこのドッグライセンスについての議論が注目されています。
と言うのも、環境大臣がミドルセックス大学の有識者に「責任のある犬の飼い方を促進するにはどうすれば良いのか、研究してほしい」と依頼したことを明らかにしたからです。
この研究の目的は、
- 他のEU諸国の犬の登録や管理の方法について検討分析
- 犬の咬傷事故のリスク要因について過去の公式見解の見直し
- 飼い犬の管理について法律施行の適用についての見直し
と言われていますが、メディアなどが特に注目しているのは、検討されている議題を総合的に考えると、犬1匹あたり年間約100ポンド(日本円にして約1万4千円)のドッグライセンス更新料が義務付けられる可能性があるのではないか?ということです。
イギリスでは過去にもドッグライセンスの制度が有ったのですが、その料金を飼い主から回収する方法がうまく行かず、30年以上前に廃止になった経緯があるそうです。
ドッグライセンスをめぐる賛否両論
ドッグライセンス、そしてそれに支払われる料金(実質の犬税)については、犬にまつわる大きな団体の間でも賛否が分かれています。
イギリスで最も大規模な動物保護団体である王立動物虐待防止協会では、長年にわたってドッグライセンスを復活させることは、犬に関する社会的な問題を管理するのに有効であるという立場を保っています。
ドッグライセンス制度で徴収された料金は、犬の福祉の改善、動物虐待の取締り、咬傷事故の予防策、野良犬問題、頭数過剰問題などに取り組むための財源になる可能性があるというのが、同協会の意見です。
一方、ケネルクラブの公式見解はドッグライセンス制度について「欠陥モデル」であると述べています。
イギリス国内の自治体である北アイルランドでは長年に渡ってドッグライセンス制度を運用していますが、実際にきちんと毎年料金を支払っている飼い主は30〜40%程度で、責任ある飼い主にのみ負担がかかり、実際に取り締まらなくてはならない無責任な飼い主は法律を軽視し続けるだけだと指摘しています。
無責任な飼い主への対策は必要であるとしていますが、そのためには政府による予防措置や教育戦略へのより大きな取り組みを希望すると述べています。
どちらの意見も「なるほど、一理ある」と思わせるものですが、皆さんはどう思われますか?
まとめ
イギリス政府が、有識者の責任ある犬の飼育についての研究を依頼したことをきっかけに、飼い主がドッグライセンス料金を支払うことについての議論が持ち上がっていることをご紹介しました。
確かに本当に無責任な飼い主は登録すらしない可能性が高いけれど、犬に関する社会的な財政負担を犬の飼い主が少しずつ責任を負うというのも、理に適っている気がします。
それぞれの国の事情が違うので、外国の例を簡単に日本に当てはめることはできませんが、このようが議論があると知ることで、日本の現行の制度についても知るきっかけになったり、多くの人が考えるきっかけになったりすれば良いなと思います。
制度を良い方向に変えていくためには、考える人が増えることが必要不可欠ですから。
【参考URL】
https://www.express.co.uk/news/uk/1199209/Dog-tax-warning-dog-owners