犬は姿形だけでなく行動にも多様性がある
犬ほど1つの種の中でサイズや姿形に多様性のある動物はいません。それは人間が犬を使役動物として飼い、目的に合わせて選択繁殖をしてきた結果です。
そして犬たちはその目的に合わせた行動をします。ある犬は狩猟を、ある犬は警備を、またある犬は人間のためのコンパニオンとして多様性のある行動を見せます。
犬の見た目の違いはもちろん遺伝子によって作られていますが、このような犬種ごとに特性のある行動も、遺伝的な違いによって裏付けられていると言う研究結果が発表されました。
犬種ごとに観察される行動を遺伝学的に比較
この研究はアメリカのペンシルバニア大学、アリゾナ大学、ワシントン大学、プリンストン大学の研究者によって、英国王立協会の会報に発表されました。
研究者たちは、ある犬種が他の犬種とは区別される特定の行動をする場合(例えばボーダーコリーやシェルティが他の動物の群れを1つにまとめるハーディング行動など)その犬種のゲノムを他の基準となる犬種と比較することで、その特定の行動に寄与する遺伝的変異を検出することにしました。
犬の行動データはC-BARQと呼ばれる「イヌの行動評価と調査アンケート」で、過去に集められたものが使用されました。このアンケートでは調査対象の各犬の「見知らぬ人への攻撃性」「興奮性」「狩猟欲」など、全部で14の行動特性が測定されます。
過去の膨大なデータの中から、研究者たちは純血種の犬のデータ14,020件をピックアップしました。そして遺伝学との関連を調べるため、以前の研究でゲノム配列が決定された5,697匹のデータが使用されました。
そして前述のように行動データとゲノム配列を比較分析した結果、犬種ごとに測定された14の行動特性の約半分が遺伝的要因によって起こっている可能性があることが分かりました。
中でも特に、環境要因よりも遺伝的要因の影響を強く受けていると思われる特性は「トレーナビリティ(訓練可能性)」「捕食性追跡行動」「見知らぬ人への攻撃性」「注目欲求」でした。
これらの行動特性の60〜70%は遺伝学で説明がつくのだそうです。
遺伝的要因の強い行動は選択繁殖の結果
このような特に遺伝的要因の影響が強い行動特性は、まさに特定の目的のために選択繁殖されたタイプの特性だそうです。家畜を追ってまとめるというような複雑なタスクのための指示に応じる牧畜犬、走る獲物を追いかける猟犬、警備力が高く見知らぬ人に敵対的な反応を見せる番犬、これらは人間が「こうあるべき」という目的のために作った行動特性とも言えます。
また60〜70%は遺伝的要因ということは、30〜40%は環境的要因や個体差で行動が変動する余地があるということでもあります。
まとめ
犬種ごとの特徴的な行動特性のうちのいくつかは、遺伝的な要因を強く受けているという研究結果をご紹介しました。
ただ、それぞれの行動特性は1つだけの遺伝子で決まるわけではなく、様々な要因が複雑に影響しています。ですから、ある犬の行動について「これは遺伝子で決まっているものだから変えられないんだ」と考えるのは早計だということです。
今回の研究では行動データを提供した犬と、遺伝子データを提供した犬は別々の個体ですが、研究チームは同一の個体の行動データと遺伝データを分析するプロジェクトを進めているそうです。
犬の行動が遺伝的要因から来るものでも環境的要因から来るものでも、それは人間が手を加えたことが大きく影響しています。「飼い主の責任」という小さい世界だけでなく、人類が犬たちに対して負っている責任の大きさを感じさせられます。
《参考URL》
https://www.sciencedaily.com/releases/2019/10/191008165817.htm