匂いでガンを探知する犬たち
犬が人間の患者のサンプルの匂いを嗅いでガンを患っているかどうかを探知する能力は、実際に医療現場で活用され、世界中の多くのメディアでも取り上げられています。
患者にとって負担のない検査方法であるため今後も探知犬の育成が期待されているのですが、このガンを探知する能力は犬のガンに対しても有効なのだろうか?という研究が行われています。
アメリカのノースカロライナ州立大学獣医学部の研究チームが行なっているこの研究についてご紹介します。
探知犬は犬のガンも嗅ぎ分けることができるだろうか?
この研究チームでは、元々他の研究のためにいくつかの化学物質を嗅ぎ分ける訓練を受けた犬たち4匹を用いました。
この犬たちがをガンの犬の尿とガンではない犬の尿を嗅ぎ分けるように訓練されました。このような研究は犬のガンの早期発見に役立つばかりではなく、人間のガンの研究にも役立ちます。
探知犬が特定の種類のガンを確実に検出できるようになれば、犬が何を基にしてガンを嗅ぎ分けているのかを探ることができ、それが臨床診断のためのバイオマーカー(身体の状態を客観的に測定し評価するための指標)の特定につながるであろうと考えられるからです。
犬のガン探知の対象となったのは、移行上皮癌という膀胱の悪性腫瘍でした。 膀胱のガンなので、尿サンプルにはガン細胞によって生成される指標となる物質があると考えられます。そこで犬たちに、移行上皮癌と診断された犬の尿サンプルと移行上皮癌を患っていない犬の尿サンプルとを嗅ぎ分ける訓練が開始されました。
犬たちはガンのサンプルを嗅いで選択した場合にトリーツの報酬を与えられて訓練されました。第1段階では、移行上皮癌はない尿サンプル1つと移行上皮癌の尿サンプル1つを用いて訓練され、4匹全てがクリアしました。
第2段階ではサンプル数を増やして、移行上皮癌ではない尿サンプル4つと移行上皮癌の尿サンプル1つを嗅ぎ分けることが求められました。これも全ての犬たちが迅速にマスターしました。
第3段階では、移行上皮癌ではない尿サンプル4つとも移行上皮癌の尿サンプル6つ、(いずれのサンプルも最初の段階から嗅ぎ分けてきた犬のサンプル)を嗅ぎ分けることが求められました。この段階をクリアした犬は1匹だけでした。
訓練はこれで終了し、第3段階をクリアした1匹だけが実験の最終段階に用いられました。最終段階では、ガンではないサンプルもガンのサンプルもどちらも今まで嗅いだことのない個体のものが使用されました。移行上皮癌ではない尿サンプル6つと移行上皮癌の尿サンプル2つをその犬が嗅ぎ分けることができるかを二重盲検試験という形で試しましたが、結果は偶然正解する以上の確率で移行上皮癌の尿サンプルを探し出すことはできませんでした。
犬のガン嗅ぎ分け探知の今後
今回の研究は、犬が犬のガンを嗅ぎ分けられるかどうかを調べて発表した初めての論文だそうですが、成功したとは言えません。
そして今回の結果から、犬が特定の犬のガンの匂いを探知できるかどうか評価するためには、サンプルの保存方法や尿から発する他の匂いを探知していた可能性などについて検討する余地があることが分かりました。今回使用された尿サンプルには、赤血球や白血球、細菌が含まれていたサンプルもあり、そのような直接ガンによるものではない匂いを嗅ぎ分けていた可能性も考えられます。また研究者は、もしかしたら犬たちが嗅ぎ分けていたのはガンに由来する物質ではなく個々の犬を特定できる匂いを嗅ぎ分けていた可能性(犬の性別や食べているフード、発情周期の違いなど)もあると述べています。
犬のガンを犬が匂いで探知する研究にはまだまだ多くの課題がありますが、このような研究は獣医師や犬の飼い主だけではなく一般の人々、人間の医療従事者からもより注目されつつある研究です。
犬にも人間の患者にも負担のない方法でガンが早期発見され、治療方法が確立するよう祈る気持ちです。
まとめ
犬が犬の膀胱ガンを尿のサンプルから嗅ぎ分けることができるだろうかというアメリカの大学の研究内容をご紹介しました。
今のところ、研究はまだ途上段階ですが犬が様々な匂いを検出して学習する能力は素晴らしいもので、これからも様々な分野での活躍が期待できることでしょう。
《参考URL》
https://www.dvm360.com/view/can-dogs-smell-canine-cancer