二面性を持つ犬
遺棄された犬
田畑に車で連れて来られ、大量のフードとともに置き去りにされていたその犬は、付近の住人の「近づくと唸るから怖い」という通報で、保健所に収容されました。
でも、収容された犬は、唸るどころかとても人懐っこかったのです。そのため、譲渡対象にする予定だったそうです。
ただ、犬の右の眼球が異常に大きくなっていたことから、保健所のボランティアに相談がありました。
「早急に目の治療が必要な犬がいるのですが、会ってもらえませんか?」
人懐っこい犬
ボランティアに会ったその犬は、初対面なのにへそ天をするなど、大変人懐っこい子でした。
毛を引っこ抜いても、怒りませんでした。
1度も唸るはありませんでした。
それどころか、本当に甘えん坊で可愛い犬でした。
引き出す
ボランティアはその犬を保健所から引き出して、右目の治療をすることにしました。
ケージに入れずにリードを付けて車に乗せても何も問題はありませんでした。
動物病院でも大人しく、何をされても、唸ることは1度もありませんでした。
他の犬と会っても、吠えることはありませんでした。
目
右目は緑内障でした。
左目は異常がなく、右目の眼球だけが大きくなり、視力も失っていました。
3歳くらいでまだ若く、緑内障になってしまった理由はわかりませんでした。
でも、痛みもなく、出血もないため治療は今の段階では必要ないと診断されました。
豹変
犬の名前は『ジャック』に決まりました。
診察を終えた足で、ボランティアは犬を一時預かりさんのところに連れて行きました。
散歩をし、フードと水を与える。そこまでは何も問題はありませんでした。
そして帰り際、骨のおやつをあげました。
その瞬間、彼の表情が変わり、唸りが始まりました。
その唸りはやがて威嚇に変わりました。
攻撃性が出たのです。近づくと咬もうとしました。
ジャックは、二面性をもっていたのです。
苦悩
それからボランティアの苦悩が始まりました。
人懐っこく危険性のない子なので、里親探しをしようと考えていましたが、その考えは見事に裏切られてしまったのです。
普段は、本当に人懐っこい可愛い性格なのに、フードやおやつの気配があると、唸り出してしまう。彼が唸った時は危険すぎて誰も近寄れません。
そんな状態で里親探しなどできるはずもありませんでした。
ボランティアはフードを工夫してあげるようにして、一度も咬まれませんでしたが、彼が本気で咬もうとしていたことは間違いありませんでした。
救いの言葉
ジャックを今後どうしたらいいのか途方に暮れていたところ、SNSでの投稿を目にしたボランティア仲間が、ある方にジャックの話をしてくれました。
それは自分でシェルターを作り、行き場のない犬たちを引き取っている人で、電話でこう言ってくれました。
「どこにも行き場がないのなら、連れてくればいい!」
ボランティアは、その言葉に救われました。
解放
そこは、鎖でつながれることがないシェルターでした。
毎日、順番にお散歩時間が与えられ、敷地内を自由に走り回れるのです。
ジャックにとって、今まで味わったことのない自由な環境でした。
ジャックは、そこで生活してわずか3日で唸らない犬に変わりました。
おやつを見せても、この笑顔と余裕です。
ジャックは、明らかに良い方向へ変わっていました。
自由
犬にとって、鎖で拘束されない環境は、自由で精神的にも余裕が出るのかもしれません。
センターにいる時には、お散歩以外は犬舎の中で、鎖でつながれることがありませんでしたが、引き出してからは、一度も鎖やリードから解放したことはありませんでした。
解放できるような場所にジャックを預けられなかったからですが、それが彼にとってストレスとなり、センターにいるときには見せなかった「唸る」という行動を見せるようになったのかもしれません。
ジャックの表情がシェルターに行ってから穏やかになりました。
そこにたどり着いたのは唸ったせいなのですが、結果的にジャックは彼にとって一番いい場所に行けたのかもしれません。
最後に
ジャックはこの環境で暫く過ごして、落ち着いたら里親探しができるような犬になるかもしれません。
犬にとって、環境はとても大事なことです。
良かれと思ってボランティアが引き出しても、ジャックにとっては、その環境が合っていなかったのかもしれません。
ジャックがどうして唸っていたのか、その本当の理由は誰にも分りません。ドッグ・トレーナーにもみてもらいましたが、その原因はわからずじまいでした。
ジャックがいつか家庭犬として、幸せになれることを心から願っております。
※この記事の写真は撮影者の承諾を得て掲載しております。