試験期間中にセラピードッグを採用する大学が増加中
アメリカの大学生はプレッシャーや将来への不安など様々なストレスを抱えており、過去10年間で学生の抑うつ症状などが増加傾向にあると言われています。
とりわけ進級や卒業に関わる試験中はそのストレスも倍増します。そこで学生たちのストレス軽減策として、数年前から試験期間中にセラピードッグを採用する大学が増えつつあります。キャンパス内で犬を飼育している例もありますが、多くの場合は試験期間中だけ犬や猫に来てもらい、学生たちがそこを訪れることができるという形をとっています。
当初はセラピードッグに認定された犬が多かったようですが、最近では近隣のアニマルシェルターから数時間の「遠足」に来てもらうという双方にメリットのある方法も増えているそうです。
ある大学ではこのアニマルセラピーを取り入れてから、落第や中退する学生の数が減少したという報告もあり、犬や猫と過ごすことがストレス軽減に役立っていることが感じられています。
犬との触れ合いはストレスレベルの数値にも影響するのか?
しかしこれらのセラピーが実際に機能しているのかどうか科学的な数値としての証拠はありませんでした。この度ワシントン州立大学の研究者が、犬や猫との触れ合いがストレスレベルを下げていることを学生の主観は抜きにして調べるために、ストレスホルモンであるコルチゾールの数値を計測するというリサーチを行いました。
実験はキャンパスへの動物の訪問プログラムの間に、249人の学生を4つのグループに分けて行われました。
グループ1の学生たちは10分間犬を撫でたり、猫と遊んだりする時間を持ちました。
グループ2の学生たちはグループ1の学生が動物と触れ合うのを10分間見ていました。
グループ3の学生たちはスライドショーで動物の画像を見せられました。
グループ4の学生たちは10分間何もせず待機していました。
全ての学生から唾液サンプルが3回採取されました。1回目は朝起きた時、2回目は上記実験の10分後、3回目は同じく実験の25分後でした。
ストレスレベル計測の結果は?
学生たちの唾液からストレスレベルを示すコルチゾールを計測した結果、10分間犬や猫と触れ合ったグループ1の学生たちは他の全てのグループよりも有意に低い数値を示しました。それぞれの学生が朝何時に起きたのか、起床時のコルチゾールレベルはどのくらいだったのかに関わらず、10分間の実験後は見事にコルチゾールレベルが低下していました。
これはわずか10分間犬や猫を撫でただけで、身体的ストレスレベルに大きな影響を与える可能性があることを示しています。このような具体的な数値が示されることで、今後どのようなタイプのアニマルセラピーをどのくらい取り入れるのが最も効果的であるかを探っていく手掛かりになることが期待されます。
研究チームは今後は唾液中のコルチゾールだけでなく、身体の最も敏感なストレスシステムであるHPA軸と呼ばれる視床下部〜下垂体〜副腎系を介した内分泌反応についてさらに研究を進めるべきであるとしています。動物を撫でることで愛情ホルモンと呼ばれるオキシトシンの分泌が促されることは知られていますが、オキシトシン分泌がHPA軸の反応を落ち着かせる可能性が考えられるそうです。
研究チームはまた、患者とセラピードッグという一対一の関係だけでなく、グループでのアニマルセラピーも生理的ストレスを軽減する証拠を得たと結論づけています。
まとめ
大学の試験期間中に犬や猫がキャンパスを訪れるアニマルセラピーが学生の生理的ストレスを軽減することが、唾液中のコルチゾールレベルの計測で明らかになったというリサーチ結果をご紹介しました。私たちが経験から「当たり前じゃない?」と思っていることも数値を明らかにしての実証が、次の段階へ進むことにつながるのだなと感じるリサーチです。
それにしても実験に協力した学生たちのうち、グループ2〜4の人たちが後からしっかりと動物と触れ合えたことを願わずにはいられませんね。
《参考URL》 https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/2332858419852592