老人ホームとセラピードッグ
老人ホームなど高齢者のための施設では、訓練を受けたセラピードッグが訪問するアニマルセラピーを取り入れるところも増えています。セラピードッグの多くは、ボランティアや専門の団体から派遣されます。犬と触れ合うことで、居住者の情緒が安定したり、精神的及び身体的なリハビリのサポートになったりするという効果が報告されています。
しかし、適性のある犬を訓練してセラピードッグを育成する手間や、アレルギーや衛生上の問題、対象者が犬の扱いに慣れていない場合の犬と人の双方のストレスなど、いくつかの問題もあります。そのような問題を前提とした次善策として、AIBOなどのロボペットが、アニマルセラピーを必要とする人々に効果があるだろうかという研究が行われ、その結果が発表されました。
ロボペットが老人ホームの居住者に与えた影響
この研究は、イギリスのエクセター大学医学部の研究者によって発表されました。複数の国の老人ホームの約900人の居住者を対象にして、居住者本人、居住者の家族、施設スタッフからの聞き取り調査の結果が分析されました。研究に使用されたロボペットは、犬型ロボットのAIBO、本物の猫の動きを研究して作られたネコロ、本物の猫と同等のサイズと重さで、撫でると鳴くジャストキャット、テディベアタイプのロボットのカドラー、セラピー用に開発されたアザラシ型ロボットのパロの5種類です。
居住者の反応は多くが良好でした。ロボペットに話しかけたり撫でたりすることで感情的な落ち着きが見られたという報告が寄せられました。ロボペットを「友達」と呼び「朝起きて、あの子に会えると思うと、今日は良い日になると思った」と答える居住者もいました。
また、過去に飼っていたペットの思い出話を始めたり、感情が前向きになったりすることで、他の居住者や家族、スタッフとの交流が促進されたという面も見られました。これらはセラピードッグによる訪問と共通する効果です。
ある居住者の家族は「あなたのお父さんはロボペットを本物の動物だと思っていますか?」という問いに対して、「ロボペットは父の生活の質を向上させよい影響を与えているので、その点は関係ありません」と答えています。
ロボペットと関わることで居住者の孤独感やうつ傾向を和らげ、居住者及びスタッフの生活の質の改善につながることが期待されていますが、今回の研究ではそこまでのはっきりした証拠となるデータは出ていません。
セラピーロボペット研究の今後の課題
このように概ねポジティブな反応が観察されたロボペットによるセラピー効果ですが、もちろん全ての人に良い結果をもたらした訳ではありませんでした。中にはロボペットを無視したり、否定的な反応を見せたりする人もいました。
研究者は、ロボペットを最適に使用するためにスタッフがトレーニングを受けることで、居住者が受け取るメリットも増えるのではないかと示唆しています。
また居住者が認知症を患っているか、その場合の症状の程度、また動物が好きかどうか、過去にペットを飼っていた経験があるかどうかなどでも反応に違いが出ると考えられます。そのため、どのようなタイプの人がロボペットによるセラピーのメリットを得ているかについて、さらに研究が必要だと研究者は述べています。
まとめ
老人ホームの居住者がAIBOなどロボペットと触れ合うことで、セラピードッグの訪問を受けたときに近い反応が観察されたという研究の結果をご紹介しました。本物の犬がくれる温もりや喜びは言うまでもなく素晴らしいものですが、全ての施設が生きた動物を受け入れられる訳ではありません。またセラピードッグ療法では、犬の福祉がおろそかになってしまう面もあり得ます。そのような条件を考えると、ロボペットによるアニマルセラピーには今後大きな期待が寄せられるのではないかと思います。
《参考》 https://doi.org/10.1111/opn.12239