できたガンを治療するのではなく、ガンができるのを予防する
犬の病気、中でも高齢の犬の疾病や死亡原因において、ガンは最も大きな割合を占めています。またガン治療は犬への負担も大きく、治療費用も高額になるという面もあります。「ガンを予防する」と言われる食品やサプリメントなどもたくさんありますが、確実な医療効果のあるものではありません。
もしもインフルエンザや狂犬病の予防接種のように、高い確率でガンの発生を予防できるワクチンがあれば素晴らしいですよね。そんなワクチンの研究が本格的に行われているのだそうです。
アメリカのウィスコンシン大学マディソン校獣医学部では、アリゾナ州立大学及びカリフォルニア大学デイビス校とともに、犬のガン予防ワクチンの開発を研究し、獣医学の歴史の中で最大規模の臨床試験を行っています。犬においての研究は、将来的に人間のガン予防ワクチンの開発につながる可能性も予想されています。
ガン予防ワクチンの臨床試験
ガン予防ワクチンの臨床試験には、現在800匹以上の犬が参加登録をしており、試験は5年に渡って実施される予定です。犬たちは6歳〜10歳までの健康な家庭犬で、試験中もふだんと同じように自宅で過ごします。参加犬たちは治験用のワクチン接種グループとプラセボ(偽薬)ワクチン接種グループとに、無作為に分けられます。
2セットのワクチン接種が2週間ごとに行われます。登録後5年に渡ってこのワクチン接種が毎年行われます。この間、全ての参加犬は年に2〜3回の精密な健康診断を受けてガンの発症があるかどうかが観察されます。
偽薬グループに分けられた場合であっても、5年間に渡って無料で最高レベルの健康診断が受けられるというメリットがあります。もしもガンが発生していると診断された場合には、治験用ワクチンと偽薬ワクチンのグループどちらであっても、無料で治療が行われます。
ガン予防ワクチンが働く仕組みとは?
従来のワクチン接種は対象とするウィルスの表面にあるタンパク質を体内に導入するものです。体の免疫システムは体内に入ってきたタンパク質を脅威と見なして、免疫細胞が攻撃準備を開始します。その後、実際にウイルスが体に入ってきたときにそのタンパク質を認識して、あらかじめ準備されていた免疫細胞がウイルスをやっつけることができます。
現在試験中のガン予防ワクチンも基本的に同じ仕組みです。このワクチンはガン細胞の表面に見られる約30種の異常なタンパク質をターゲットとしています。免疫反応を刺激する物質とともに、これらのタンパク質を健康な犬に注射することで、免疫システムがガンに対して「攻撃準備OK」になり、体がガンから守られるというのが、ガン予防ワクチンの理論です。
このワクチンが対象とするのは、悪性リンパ腫、骨肉腫、骨ガン、血管肉腫、肥満細胞種など、犬に多く見られる複数の種類のガンです。1回のワクチン接種で数種類のガンを予防できる可能性があるというわけです。
このようなワクチンが実用化されれば、病の苦しみそのものはもちろんのこと、治療の負担や高額な医療費の可能性を抑えることもできるので、期待が膨らみます。また、臨床試験を通じて集められた情報は、ガンだけでなく免疫システムについても理解が深まる助けになると考えられます。そして将来的に、ヒトのガン予防ワクチンの開発につながることも期待されています。
まとめ
1回のワクチン接種で複数の種類のガンを予防できる、犬のための「ガン予防ワクチン」の研究についてご紹介しました。臨床試験が始まったばかりで、実用化されるのはまだもう少し先の話になりそうですが、このようなワクチンが実現すれば素晴らしいと思います。
《参考》 https://news.wisc.edu/clinical-trial-begins-to-test-universal-vaccine-against-canine-cancer/