ヒゲの男性は犬よりも多くの量の細菌を身につけている?
2019年春、ヨーロッパの複数の放射線科の医師によって、ヨーロピアン・ラジオロジー誌に発表された研究が、各種メディアで大きな反響を呼んでいます。ニュースや新聞などで取り上げられた際の研究の紹介は「ヒゲを生やしている男性は犬より不潔?」「ヒゲの男性は犬よりも多くの細菌を撒き散らしている!」というセンセーショナルなものでした。
しかし、発表した医師の専門や発表された媒体から分かるように、この研究は放射線科の研究の一環として行われたものです。放射線科と細菌と犬という組合せに「はて?」と首をひねりたくなりますが、その詳しい内容をご紹介します。
研究の目的は人間と犬がMRIスキャナーを共用するためのもの
この研究の目的は、MRIスキャナーを使って犬の検査を行った後に、人間が同じ機器で検査を受けても衛生的に問題はないかどうかの事実確認でした。犬にも高度な検査や治療が行われるようになり、MRIを用いた検査も多く行われるようになっています。
しかし、多くの動物病院にとってMRIスキャナーは購入や運用をするには高価過ぎるものです。そこで、多くの動物病院では人間のための医療施設に犬の検査を依頼しています。そのような背景があって、犬と人間がMRIスキャナーを共用する際の衛生上の問題をクリアにするためにこの研究が行われました。
研究に参加した犬は脳や脊髄の検査のために、定期的にMRIスキャナーに入っている犬たち30匹です。人間の参加者はMRI検査が必要な入院患者の中から、ヒゲを生やした18〜76歳の男性18名が参加しました。参加者は入院患者の中では比較的健康状態が良好で、前年には入院経験のない人だけが選ばれました。
そうして犬の場合は口の中を綿棒で拭った口中サンプルと、肩甲骨の間にサンプル用プレートを擦り付けて被毛のサンプルが採取されました。犬の肩甲骨の間は最も皮膚感染が起こりやすい=細菌が多い場所なのだそうです。人間では皮膚と唾液のサンプルが採取され、それぞれ分析されました。
犬と人間、それぞれの細菌の分析の結果は?
さて分析の結果ですが、タイトルが示している通り犬よりも人間のサンプルの方が多くの微生物を含んでいました。人間の参加者18人全員が微生物の数が「高レベル」と判定されました。犬では高レベル判定を受けたのは30匹中23匹でした。参加男性のうち7人、犬のうち4匹にヒト病原性微生物に対して陽性が出ました。
これらの微生物は一般的なものですが、条件によっては深刻な感染症を引き起こす可能性があります。今回の研究のテーマは、犬が使用したMRIスキャナーを人間が使用しても衛生的な問題はないだろうかというものでしたが、人間が使用した後の機器にも想像以上の感染性の細菌が残されていることが明らかになりました。
この研究ではヒゲを生やした男性が対象となっていますが、ヒゲを生やしていない男性または女性がヒゲの男性よりも抱えている細菌が少ないのかどうかは分かりません。
まとめ
犬と人間がMRIスキャナーを共用するために、衛生的な問題をクリアにするために行われた研究において、ヒゲを生やした男性は犬よりも感染性の細菌をたくさん抱えているという結果が出たことをご紹介しました。犬好きとしては「犬が悪者にされなくてよかった!」という気持ちになりますが、院内感染を予防すると重要な事柄において、先入観やイメージだけでなく正確に危険を認識しないといけないのだということが分かります。
《参考》
https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs00330-018-5648-z
https://www.livescience.com/65293-beards-are-super-germy.html