犬のてんかん発作に新しい治療の可能性
てんかんは異常な神経活動によって発作を起こす疾患で、人間でも犬でも発生が認められている神経疾患です。抗てんかん薬での治療が一般的ですが、2019年初めに医療用ヘンプの成分であるカンナビジオール(CBD)を使った経口薬が、ヒトのてんかん発作の治療薬として米国食品医薬品局に承認されました。
このCBDがヒトのてんかん発作治療に効果があるという結果を受けて、日本のヤマザキ動物看護大学の研究者が、犬のてんかん発作の治療についてCBDの有効性や安全性を調査する研究を開始しました。治療の対象となった犬の数はごく少数ですが、その結果がこのたびペット・ビヘイビア・サイエンス誌に発表されました。
CBDオイルを与えた臨床試験
研究の対象になった犬は3匹で、3匹とも日常的にてんかん発作を起こしているわんちゃんでした。1匹は約6か月齢で発作が始まった、3歳オスのラブラドールレトリーバー。もう1匹は3歳のときに発作が始まった、10歳オスのチワワ。そして、もうすぐ4歳になるという頃に発作が始まった、11歳オスのパピヨン。
試験期間は8週間で、オーガニックココナッツオイルにCBD含有ヘンプ抽出物を加えたものが、1日2回、空腹時に与えられました。試験期間中、犬たちは2週間ごとに検査を受けました。
結果と今後の課題
8週間の投与期間中と投与後の結果は次のようなものでした。ラブラドールレトリーバーは8週間の投与期間中に2回の発作が起きました。また、8週間の投与期間終了後、5日の時点でも1回の発作がありました。飼い主の報告によると、日中の睡眠時間が増え、他の犬が興奮して吠えていても一緒に吠える回数が減ったとのことでした。
チワワは8週間の投与期間中に1回だけ発作が起きました。飼い主の報告では、本格的な発作ではないものの「発作のような行動」が減少し、家族など身近な人々に対する攻撃性が減少したということでした。パピヨンは8週間の投与期間中に8回の発作が起きました。飼い主の報告では、治療以前よりも積極的に食べるようになり、落ち着きが増して、日中の睡眠時間が増えたとのことでした。
ラブラドールレトリーバーとチワワの飼い主はCBDによる治療で、犬の症状が改善したと感じると述べています。一方、パピヨンの飼い主は改善したようには感じないと答えています。研究者は「発作が起きる頻度はかなり改善され、飼い主は肯定的な印象を報告している」と述べています。しかし、今回の研究は3匹という少数でのものでしたので、今後さらに研究が必要であるとのことです。
また人間の場合には、てんかん発作を引き起こすトリガーにもなり得る不安の感情をCBDが軽減するのですが、犬の場合にはこの点が不明であり、神経生物学におけるCBDのメカニズムを理解するために、さらなる研究が必要だということです。
まとめ
医療用ヘンプに由来するCBDが犬のてんかん発作に有効である可能性を示す研究結果をご紹介しました。てんかんは一般的な疾患であるにも関わらず完治の決め手がなく、抗てんかん薬を一生飲まなければならないので犬自身にも飼い主さんにも負担の大きい病気です。従来とは違うアプローチであるCBDを使った治療法が確立されると、救われる犬や人がたくさんいるので、今後の研究に大いに期待したいと思います。
なお、健康食品として販売されているヘンプオイルには薬効成分であるCBDは含まれていませんので、治療の助けにはならないことと、てんかんを患っていない場合にも心配はありません。
《参考》 https://www.uco.es/ucopress/ojs/index.php/pet/article/view/11800/10795