てんかん発作と介助犬
てんかんは、脳の一部の神経細胞が、一時的に異常な電気活動を起こす発作を繰り返す病気です。患者数は1000人に5〜8人、日本全体では60万〜100万人という誰もが発病する可能性のある病気の一つです。てんかんの治療の多くは薬物療法ですが、抗てんかん薬の効きにくい難治性のてんかんでは発作が継続して起こります。
発作は予期せぬ状態で起こることがあり、日常生活に深刻な影響を与える場合もあるのが、この病気の難しい点です。日本ではまだ浸透していませんが、アメリカなどではてんかん発作の患者を助ける介助犬が数多く活躍しています。
てんかん介助犬はてんかん発作そのものに反応するように訓練されています。けれど、介助犬の中には、まだ発作が起こっていないのに、介助される人の顔を舐め始めたり、動作をゆっくりにしてペースを合わせたり、キュンキュン鳴いたりするという反応を示す犬が一定数いました。
てんかん発作の前の匂いを犬が感じ取っている?
発作が起きる前に犬が反応して知らせてくれると、発作中の安全を確保するために前もって横になることができます。これは大変有り難いことですが、犬が何を感知したのかの情報がないことには、状況を再現してトレーニングすることができません。
フランスのレンヌ大学の研究者は、様々なタイプのてんかん患者や、発作の種類の共通するてんかん発作特有の臭気成分があるのかもしれないという仮説を立てて、実験を行いました。
実験に参加した犬は、アメリカのメディカル・マッツという非営利団体で訓練された犬たちです。メディカル・マッツは、保護団体やアニマルシェルターから適性のある犬を選別して、糖尿病とてんかん発作を検知する犬、心理的サポートのための介助犬を訓練育成している団体です。
実験の内容と結果
実験はフランスの病院で、てんかん患者5人から集められたサンプルと5匹の犬が参加して行われました。てんかん患者はそれぞれに違うタイプの症状を持っている人々が選ばれました。集められたサンプルは各患者の呼気と汗で、それぞれに7つのサンプルが採取されて患者1人につき14のサンプルが用意されました。7つのうち1つだけがてんかんの発作中、2つは身体的な運動の直後、4つは休息中の異なる時間に採取されました。
これらのサンプルをメディカル・マッツで訓練された5匹の犬が匂いを嗅ぎ分ける実験が行われました。その結果は、全ての犬が全ての患者に関して、発作中のサンプルを明確に同じ患者の非発作時のサンプルと区別していたことを示していました。
これは患者の個人差や発作の種類と言った違いを超えて、てんかん発作特有の共通した匂いがあることを実証しています。この研究の結果は、てんかん発作の匂いを検出するという可能性に大きく貢献するものです。
まとめ
てんかんの発作が起こる前の特有の呼気や汗の匂いで、犬がてんかん発作を前もって感知することができるという研究の結果をご紹介しました。そのような匂いがあると実証されたことで、介助犬のトレーニング方法や役割も大きく進歩すると期待されます。またさらに研究が進めば、訓練された犬ではなく電子嗅覚システムを使った医療機器の開発なども視野に入れられます。
病気を完全に治療する研究とはまた別に、このように病気をマネージメントする方法が研究されるのも重要なことです。そして、その可能性を広げてくれるのが犬の存在だったということに感謝したいと思います。
《参考》
https://www.nature.com/articles/s41598-019-40721-4
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_epilepsy.html