犬のコートの状態を決定する遺伝子
犬の毛質は犬の特徴の大きな部分を占めるものですから、繁殖の際の重要なポイントとなります。犬種によって毛質にいろんなタイプがあるのはご存じの通りです。ショート、ロング、ストレート、カーリー、ワイヤー、そして毛のないヘアレス。
犬種として意図的に繁殖されたヘアレスドッグの他に、本来はヘアレスではないはずなのに遺伝子の欠損によって毛を持たない犬もいます。現在、いくつかの遺伝子がヘアレスに関連付けられており、その中には歯の欠損や形成不全に関連する遺伝子も含まれるため、多くの場合、ヘアレスの犬には歯が欠損しています。この研究の対象となったのは、これらの遺伝子のうち犬種特性として維持されているヘアレスに関連するSGK3遺伝子の変異体です。
本来は長いコートを持つのに無毛になってしまう犬
今回ご紹介する研究を発表したのは、フィンランドのヘルシンキ大学の研究者です。この研究では、スコティッシュディアハウンドに時折見られる無毛の原因となるSGK3遺伝子の変異体について説明しています。スコティッシュディアハウンドは、本来は硬く長いラフコートを持っている大型のサイトハウンドですが、同腹で生まれた子犬の中に時折薄くまばらなコートで生まれてきて、数週間のうちに全ての毛が抜けて無毛になる個体がいます。
この脱毛がSGK3遺伝子の変異体に関連するのですが、この変異体は犬種として固定されているヘアレス種のSGK3遺伝子変異体とは異なるタイプの変異体なのだそうです。SGK3は毛周期に影響を及ぼす酵素コードをしています。正確なメカニズムはまだ分かっていません。
無毛のディアハウンドの手掛かりと予防
SGK3遺伝子の変異体はアメリカンヘアレステリアの犬種の特徴である無毛と関連していることが分かっています。アメリカンヘアレステリアは、生まれた時にはまばらに毛が生えていて数週間で全部が抜けるという点がスコティッシュディアハウンドの無毛の突然変異の個体と同じです。
また、アメリカンヘアレステリアは他のヘアレス種の犬たちと違って、歯の欠損が見られません。この点も、無毛のスコティッシュディアハウンドに他の重大な障害が見つかっていないことと共通しています。アメリカンヘアレステリアの遺伝子の研究がさらに理解を深める手掛かりになるかもしれません。また、遺伝子検査をして繁殖のためのデータとすることで、無毛のスコティッシュディアハウンドが生まれることを予防できるだろうと研究者は考えています。
ヒトにおけるSGK3遺伝子の役割
また、この研究のもう一つの重要な発見は、ヒトにおけるSGK3遺伝子の役割が分かったことだそうです。SGK3遺伝子はヒトの非ホルモン性の脱毛、若年性の脱毛症に関連しており、これらの問題を解決するために、さらなる研究を進めていくとのことです。ヘアレスドッグの遺伝子と人間の脱毛症の遺伝子が共通しているとは、言われてみればなるほどと思いますが、意外な印象もあって興味深く思います。
まとめ
ヘルシンキ大学の研究チームによって発表された、スコティッシュディアハウンドの無毛の個体に関連する遺伝子の研究をご紹介しました。犬の遺伝子の情報が解明されるにしたがって、犬という生き物のことがより分かるようになることはもちろん、人間との多くの共通点も分かってきたことは明るい話題だと感じます。科学が、人間と動物の両方にとって健康の恩恵をもたらすものであってほしいと思います。
《参考》 https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs00439-019-02005-9