犬から人間に感染する可能性のある新型インフルエンザ【研究結果】

犬から人間に感染する可能性のある新型インフルエンザ【研究結果】

鳥や豚など動物からのインフルエンザ感染は度々問題になっていますが、犬から感染する可能性がある新型のインフルエンザについての研究が発表されました。

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記事の監修

東京農工大学農学部獣医学科卒業。その後、動物病院にて勤務。動物に囲まれて暮らしたい、という想いから獣医師になり、その想い通りに現在まで、5頭の犬、7匹の猫、10匹のフェレットの他、ハムスター、カメ、デグー、水生動物たちと暮らしてきました。動物を正しく飼って、動物も人もハッピーになるための力になりたいと思っています。そのために、病気になる前や問題が起こる前に出来ることとして、犬の遺伝学、行動学、シェルターメディスンに特に興味を持って勉強しています。

次々に生まれる新型インフルエンザウィルス

人の手とウイルスのイメージ画像

鳥インフルエンザ、豚インフルエンザなど、動物を介して感染する新型のインフルエンザは2000年代以降の公衆衛生の大きな問題の一つとなっています。韓国の研究者らは、様々な種類の動物に関連するインフルエンザの菌株を観察する研究を10年間行ってきました。その結果、犬や他のコンパニオンアニマルによって、人間にも拡がる可能性のある新型インフルエンザへの警戒を示唆しています。

犬から人に感染の可能性のある新しいインフルエンザ

頭にアイスパックを乗せた犬

これまで犬はインフルエンザ研究の分野において、人間への感染の可能性という点では注意を払われていませんでした。けれども、鳥インフルエンザウイルスに由来する犬インフルエンザウイルス(人間には感染しない)は以前から存在しています。また、2009年に世界的に流行した豚インフルエンザウイルス由来の人の新型インフルエンザウイルスは犬に感染することがあります。この、犬インフルエンザウイルスと2009年の人の新型インフルエンザウイルスがもとになった、新型の犬インフルエンザウイルスが発見されたのです。さらに重要なことに、この新型犬インフルエンザウイルスが人間にも感染する可能性がある、人間に感染した場合には非常に早いスピードで感染がひろまる恐れがあると研究者は述べています。

そして、この新型犬インフルエンザはフェレットへの感染率が高いため、人間への感染の危険性が高いと判断されたのです。同ウイルスはフェレットの他に猫への感染も報告されており、コンパニオンアニマルからのインフルエンザウイルス感染の監視は、もっと強化されるべきだと研究者は主張しています。

そして、この新型犬インフルエンザはフェレットへの感染率が高いため、人間への感染の危険性が高いと判断されました。同ウイルスはフェレットの他に猫への感染も報告されており、コンパニオンアニマルからのインフルエンザウイルス感染の監視は、綿密に強化されるべきだと研究者は求めています。

新型ウイルスへの対応はどうすればいい?

病院で横たわって診察を受ける黒ラブ

研究者はもちろんワクチンの開発にも尽力していますが、インフルエンザウイルスは突然変異を非常に起こしやすいためワクチン開発は簡単ではありません。つまり今のところ、新型犬インフルエンザのワクチンはない状態です。報告されている症状は、鼻づまり、呼吸困難、咳、鼻水、くしゃみ、意識混濁した状態で眠り続ける、食欲不振など呼吸器疾患の典型的なものです。

愛犬や愛猫、フェレットなど、コンパニオンアニマルにこのような症状が見られたら、すぐに病院で診察を受けましょう。またふだんから食生活や運動、水分補給、過剰なストレスを避けることに気をつけて、免疫力を下げない努力も大切です。

従来の犬インフルエンザは、人間への感染の可能性は非常に低いと言われていましたが、念のため家族全員が石鹸での手洗いの徹底、生活環境の消毒、休養や睡眠を十分に取る、水分補給を心がけ、不調があれば早めに受診しましょう

まとめ

ポメラニアンの横に置かれた薬瓶と注射器

韓国の研究者によって、新型の犬インフルエンザウイルスが人間にも感染する可能性があると発表されたことをご紹介しました。今のところ、この新型がどの程度の脅威なのかはまだわかっていません。むやみにパニックになることは避けなくてはいけませんが、可能性を知っておくことで早めの対処や生活習慣の見直しなどもできますし、いざという時の判断にも役立ちます。

この数年、アメリカやアジア諸国では犬インフルエンザの流行が続いていますが、幸いなことに日本への影響は大きくありませんでした。けれどもいつまでも対岸の火事だと考えてはいられません。犬インフルエンザの情報について、ワクチンの開発情報も含めて、今後も気に留めておきたいと思います。

《参考》 https://phys.org/news/2019-03-dogs-source-flu.html

監修獣医師による補足

【補足】 この記事に含まれるポイントとして、①犬におけるインフルエンザ、②犬と人の間でのインフルエンザ感染、③人に感染する新型インフルエンザウイルスが犬で発生する可能性、があります。

 ①犬におけるインフルエンザは、ウイルスの種類として2011年までに5種類が報告されており、そのうちH3N2型がアジアで、H3N8型がアメリカで流行しています。(犬のH3N2型インフルエンザウイルス感染では、人間のインフルエンザと同様の症状が見られます。)そして、この記事のもとになった研究では、6種類目の新型犬インフルエンザ(CIVmv)が発見されたわけです。CIVmvはH3N1型のウイルスで、ウイルスの遺伝子解析の結果から、2009年にメキシコから始まり世界中で大流行した人の新型インフルエンザ(H1N1型)と犬のH3N2型インフルエンザがもとになって作られたウイルスと推定されています。犬は人のH1N1型インフルエンザウイルスに感染はしますが、症状は示しません。犬のCIVmvの実験感染では、目に見える症状はありませんでしたが、肺の病変が認められています。

 ②犬と人の間でのインフルエンザ感染については、CIVmvが発見されたことからも人から犬への感染があることが強く疑われますが、実験的にも人のインフルエンザウイルスが犬に感染することが同じ研究者によって示されています。人の季節性インフルエンザの原因ウイルスの一つであるH3N2型インフルエンザウイルスを犬の鼻粘膜に接種したところ、鼻粘膜でのウイルスの増殖と血中抗体の存在が確認され、その犬と一緒に飼育した犬からも同様の検査結果が示されました。(どの犬も症状は示しませんでした。)記事内で説明されている通り、新型犬インフルエンザ(CIVmv)は人への感染が証明されていませんが、フェレットへの感染率から人間も感染する恐れがあると考えられています。

 ③人に感染する新型インフルエンザウイルスが犬で発生する可能性は、インフルエンザウイルスが非常に変異しやすいウイルスであること、既述したように犬が感染する人のインフルエンザウイルスがあること、犬から人に感染する可能性が高いインフルエンザウイルスが発見されたことから考えられることです。

①は犬における問題にとどまりますが、②と③は公衆衛生上の問題であり、犬は非常に濃密に人間と接触しながら暮らす動物であるため、インフルエンザ予防の点からも節度を持って犬と暮らすことが求められると言えます。

≪参考論文≫ Daesub Song, Hyekwon Kim, Woonsung Na, Minki Hong, Seong-Jun Park, Hyoungjoon Moon, Bokyu Kang, Kwang-Soo Lyoo, MinjooYeom, DaeGwinJeong, et al.Canine susceptibility to human influenza viruses (A/pdm 09H1N1, A/H3N2 and B).J Gen Virol. 2015 Feb; 96(Pt 2): 254–258.https://doi.org/10.1099/vir.0.070821-0

Song D, Moon HJ, An DJ, et al. A novel reassortant canine H3N1 influenza virus between pandemic H1N1 and canine H3N2 influenza viruses in Korea. J Gen Virol. 2012;93(Pt 3):551–554. doi:10.1099/vir.0.037739-0

獣医師:木下 明紀子
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