犬とオオカミの違いと共通点の研究
何かの作業について人間に協力をする動物と言えば、多くの人が一番に頭に浮かべるのは犬ではないでしょうか。それでは、犬と祖先を同じくするオオカミはどうでしょう?オオカミも人間に協力して共同で作業をすることができるのでしょうか?
そんな興味深い研究が、オーストリアのウィーンにあるウルフ・サイエンス・センターの動物行動学の研究者によって行われ、その結果がネイチャー誌のサイエンティフィック・レポートに発表されました。
犬と人、オオカミと人が共同でパズルを解く実験
研究のための実験には、ウルフ・サイエンス・センターで人間の手によって育てられたハイイロオオカミ15匹(11匹のオス、4匹のメス、年齢2~8歳)、12匹の雑種犬(7匹のオス、5匹のメス、年齢:2~7歳)が参加しました。センターではオオカミも犬も生後早い段階から人間に対して社会化が行われているため、皆人間によく馴れています。実験はそれぞれの動物と最も親密な関係を築いているトレーナーが、ペアを組んで行われました。
それぞれのペアは、トリーツを手に入れるためのパズルを複数与えられます。金網の向こうに、両端にロープの突いたトレイが置かれ、トレイの上にはトリーツが乗っています。2本のロープの端は金網のこちら側に少し垂らされていて、ロープの片方を犬または狼が、もう片方を人間が引っ張ることで、トレイが金網に引き寄せられてトリーツを取ることができます。
それぞれのペアが複数回のトライアルを行い、何十もの結果を分析した結果、社会化されたオオカミと犬は人間のパートナーとの共同作業において、その能力に違いがないことが分かりました。犬もオオカミも人間と上手に協力してパズルを解くことができたのです。けれど、その協力の仕方には犬とオオカミで大きな違いがあったのだそうです。
オオカミはリード型、犬はフォロー型
パズルを解くということ自体に関しては、オオカミはむしろ犬よりも成功率がやや高かったのだそうです。オオカミは一つのパズルを解くと、人間のパートナーを待たずに自主的に次の課題に取り掛かる傾向があり、どちらかと言うと人間をリードして主導権を取るような様子が観察されたということです。
一方犬は、作業中に人間の方を見ている時間がオオカミに比べて約2倍の長さがあり、人間の行動を待って、それを見てから作業をする様子が観察されたそうです。
元々オオカミは群れの中で協力しあって、共同で狩りや子育てを行う生き物ですから、共同作業に能力を発揮することは驚くには値しません。研究チームはこれらのことから、共同作業のスキルは犬の家畜化の過程で新しく開発されたものではなく、祖先を同じくするオオカミと犬の共有の行動特性から来ていると仮説を立てています。前述したオオカミのリード傾向、犬のフォロー傾向は、犬の家畜化の過程で、特に従順な犬を選択育種してきた結果であろうと考えられています。
まとめ
ウィーンのウルフ・サイエンス・センターで行われた、オオカミと犬と人間の共同作業についての研究をご紹介しました。早い段階から社会化すれば、人間と高いレベルで協力し合えるオオカミ、その行動特性が今私たちのそばにいる犬へと繋がったのかと思うと深い感慨を覚えます。また、犬が私たち人間に協力してくれるその能力は「犬の中のオオカミ」の部分から来ているのだと思うと、何とも言えないロマンを感じます。愛犬と何か共同で作業をすることで、ぜひ愛犬の中のオオカミを感じる機会を持って見てください。