脳の大きさと認知能力は比例するのか?
生き物の脳のサイズと認知能力の間に関連はあるのでしょうか?脳のサイズが大きいとニューロンの数も増えるので、より複雑な認知能力が得られるのでしょうか?このたびアメリカのアリゾナ大学の人類学の研究チームが、上のような疑問に関して興味深いデータの発表を行いました。
過去の研究では、霊長類において脳の大きさと認知能力は強く関連することが明らかになっています。けれども、大きな脳を持つゴリラやチンパンジーなどの類人猿と、小さいサイズのヒヒやテナガザルとは進化の方向が違っているために、単純にサイズの違いでの比較にはならないと考えられ、犬が研究対象として取り上げられました。
市民科学データを使った比較
この研究は、通常とはかなり違うユニークな方法でデータが収集されました。dognition.comというウェブサイトを通じて、一般の飼い主が自宅で愛犬を対象にした認知実験の結果を収集するというものです。ウェブサイトでは実験の方法が指示され、飼い主は実験結果を入力して送信します。
このようなデータ収集は『市民科学データ』と呼ばれるもので、専門家の管理のもとで収集されるデータに比べると正確さでは劣りますが、費用をかけずに一度に大量のデータを収集することが可能です。
収集されたデータは純血種の74犬種7000匹以上に上りました。さて、データを分析した結果はどのようなものだったのでしょうか?
犬の脳のサイズとテストの結果に見られた関連性
ウェブサイトが指示するテストは10種類あり、そのうちのいくつかは複数回繰り返して行い、それぞれの結果を報告するというものもありました。研究者がテストを通じて測定しようとしたのは、「作業記憶や行動制御に関連する認知能力」であるとしています。
テストの一例は、犬が見ている前で2つのカップを逆さまに置き、そのうちの一つの下にトリーツを隠し、その後60秒90秒120秒150秒の4種類の時間をおいて、犬がトリーツが入っていたカップを覚えているかどうかを試すというようなものです。
上記のような「近時記憶」と呼ばれるものを試すテストにおいては、脳の重量が大きい犬のテスト成績は明白に優れていました。また自制心を示す尺度でも大型犬は能力の高さを示しました。ただし、他の測定結果と脳の重量の関係では、広く異なる結果が得られました。これらのことから、研究チームは神経細胞学と認知の相関を調査する上で犬種ごとの研究に期待を寄せているとのことです。
まとめ
アリゾナ大学の研究者が行った、犬の脳の重量と認知能力の関連を探るテストの結果から、記憶力や自制心の面で大型犬はより優れた結果を見せたという分析結果をご紹介しました。大変興味深い研究なのですが、犬は1万年以上に渡って人間によって選択育種されてきた生き物としての特殊性は忘れずに、頭に置いておきたいと思います。
脳の重量によって影響される実行機能の分野があるという研究は大切ですが、犬に関わる一般の人々が「大型犬は小型犬より頭がいい」とか、「頭のいい犬種ベスト10」などにこだわるのは意味のないことです。犬の能力は人間が長い年月をかけて作り上げてきたものです。犬種ごとに目的の違う能力があり、それが後世の人間の都合に会うか合わないかで「頭がいいか悪いか」を決めつけるのはおかしいことだと認識したいと思います。
《参考》 https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs10071-018-01234-1