犬は社会の潤滑油
犬と散歩をしていると、知らない人から声をかけられたり、犬を連れている人同士、気軽に挨拶ができたりするという経験は多くの人が持っていると思います。このことは、2015年のウェスタンオーストラリア大学の研究でも、ペットの存在が人間関係の構築をサポートしていると発表されています。
このたびオーストラリアのラ・トローブ大学の研究者によって、知的障害を持つ人々と地域社会にとっても、同じように犬が人間関係のサポート役になるだろうかという研究が発表されました。
知的障害を持つ人々のための犬の散歩プログラム
この研究は、知的障害を持つ方々のための犬の散歩プログラムの効果を調査することを目的として行われました。プログラムに参加したのはグループホームで生活している16人の知的障害を持つ人たちです。
このような施設で生活している知的障害を持つ人々の多くは、施設の職員、他の居住者、家族以外の人と接触する機会がとても限られています。研究者は定期的に犬と一緒に外出することで、他の人々との友好的な出会いにつながるかどうかを調査したいと考えました。
犬の散歩プログラム、調査の方法
調査は16人の人たちを2つのグループに分けて行われました。どちらのグループの人たちも二人一組のペアに分けられています。1つ目のグループの人たちは、それぞれのペア+犬とハンドラーで散歩に出かけます。もう一つのグループの人たちは、それぞれのペア+付添いの人で同じように出かけます。どちらのグループも、カフェ、ショッピング、公園の散歩など1回1時間のセッションを14回行いました。
全14回のセッションの後、犬無しだった人たちには犬と一緒の1時間のセッションが5回追加されました。散歩セッション中に、他の人とどのくらいどのような出会いの機会があったかが観察して記録されました。
犬との散歩がもたらした結果は?
全てのセッションが終わった後、記録された結果を見ると、犬と一緒にいるときは他の人との接触や出会いの機会が有意に多いことが示されていました。1回の外出あたり、犬なしの場合は平均1.2回だったのが、犬と一緒の場合は平均2.6回というものだったのです。
また、接触や出会いの質も犬がいないときといるときでは違っていました。犬なしの場合には知的障害を持つ人たちを無視したり、失礼な態度をとったりする人がいましたが、犬と一緒の場合にはこのようなことが起こりませんでした。
犬と一緒にいるときの接触や出会いは、犬についてのコメントや「撫でてもいいですか?」など、友好的なものばかりでした。また、犬と一緒に毎週同じ場所を訪れた場合には、犬なしの場合よりも参加者たちが早く地域の人々に認識されました。散歩プログラムの参加者の一人は「犬と一緒にいるときの方が人々はフレンドリーです。笑顔も多く見られました。」と答えています。
研究者たちは「知的障害を持つ人々が犬と一緒に外出したときには、犬無しのときに比べてはるかに多くの友好的な出会いの機会を持つことができました。また犬の存在はネガティブな要因に対するプロテクションにもなり、社会的交流への参加や地域社会で認識されることをサポートしたと言えます。」と述べています。
まとめ
オーストラリアの研究者が行った、知的障害を持つ人々が犬と一緒に外出することで社会的な交流や友好的な出会いの機会を多く持つことができたというリサーチの結果をご紹介しました。研究者たちは、より客観的な対策を立ててサンプル数を増やして、さらなる研究を進めていきたいと考えているそうです。犬の力を借りることで、知的障害を持つ方々が地域社会に溶け込み社会に参加していく機会が増えるのは素晴らしいことです。人間はまた一つ犬のパワーに助けられる項目が増えたようです。
《参考》 https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/jir.12538