犬の散歩に関連した高齢者の骨折が増えている【米国のリサーチ】

犬の散歩に関連した高齢者の骨折が増えている【米国のリサーチ】

犬の散歩に関連した高齢者の骨折が増加しているというリサーチの結果が、アメリカで発表されました。その内容をご紹介します。

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記事の監修

東京農工大学農学部獣医学科卒業。その後、動物病院にて勤務。動物に囲まれて暮らしたい、という想いから獣医師になり、その想い通りに現在まで、5頭の犬、7匹の猫、10匹のフェレットの他、ハムスター、カメ、デグー、水生動物たちと暮らしてきました。動物を正しく飼って、動物も人もハッピーになるための力になりたいと思っています。そのために、病気になる前や問題が起こる前に出来ることとして、犬の遺伝学、行動学、シェルターメディスンに特に興味を持って勉強しています。

健康上のメリットが強調される犬の散歩だがリスクも

犬と散歩する年配の男性

様々な学術的なリサーチを通じて、犬の散歩が身体的、精神的、社会的に人々の健康をサポートするというメリットは数多く報告されています。実際にそのメリットを肌で感じているドッグオーナーも多いと思いますし、犬との暮らしはその楽しさを強調したくなるものです。

けれど、アメリカのペンシルバニア大学医学部の研究チームが、JAMA surgeryという医学雑誌に発表したリサーチで、犬の散歩中に骨折する高齢の人々が増加していることが指摘されました。

高齢者の骨折はどのくらい増えているのか?

発表されたリサーチによると、65歳以上の人々の怪我のうち、犬の散歩に関連する骨折が増えていることが明らかになりました。2004年には犬の散歩中に骨折をした人の数は約1700件であったのに対し、2017年には約4400件に増加していたのだそうです。14年間で約2.6倍の増加というのは注目するべき数字ですね。

骨折した患者の4分の3以上は女性でした。これは高齢の女性は高齢の男性より骨が脆いことが理由と考えられます。骨折した部位で最も多かったのは「股関節」で、全体の17%を占めていました。高齢者の股関節骨折は寝たきりにに繋がったり、死亡率の増加にも関連したりするため、これは大きな懸念です。次に多い部位は手首、上腕、指、肩でした。また、このリサーチは救急医療機関で治療された骨折に関するデータのみを使っているのだそうです。ですから、他の医療機関で治療された骨折、腱や筋肉の裂傷も統計に入れた場合には、犬の散歩中に怪我をした高齢者の数は、さらに増加していることが考えられます。

また、このリサーチは救急医療機関で治療された骨折に関するデータのみを使っているのだそうです。ですから、他の医療機関で治療された骨折、腱や筋肉の裂傷も統計に入れた場合には、犬の散歩中に怪我をした高齢者の数は、さらに増加していることが考えられます。

なぜ犬の散歩中に骨折する高齢者が増えているのだろう?

犬と散歩する年配の女性

なぜそんなに犬の散歩中に怪我をする人が増えているのか?というのは、当然沸きあがる疑問ですね。リサーチの著者は、アメリカの高齢者が以前よりも活動的になっていることが犬の散歩中の骨折の増加の背景にあるのではないかと述べています。

アメリカだけに限らず、世界中の研究者が犬を飼うことで健康にポジティブな影響があるという研究結果の発表をし、犬を飼うことのメリットが繰り返し強調されてきました。「年を取っても活動的でありたい」「楽しみながら病気のリスクを低下させたい」という思いから、犬の散歩が人気になったことは想像に難くありません。ちなみに、近年、犬を飼う高齢者が増えているかどうかについてデータはないそうです。ここ10年の間、アメリカで犬を飼っている家庭は全体の37~38%と安定した率だそうですが、そのうちの高齢者の割合は統計をとっていないとのことです。

今回のリサーチ結果を受けて、研究者は「犬との散歩のメリットを挙げるときには、同時に散歩中のリスクについても言及する必要があります。運動としての犬の散歩に利益と不利益のどちらが多いのか考えることは、高齢者の負傷事故を最小限にするために不可欠です。」と述べています。

まとめ

小型犬を抱いてベンチに座る年配のカップル

2004年から2017年の救急医療機関での治療データを基に、65歳以上の高齢者が犬の散歩中に骨折する例が増加しているというアメリカのリサーチ結果をご紹介しました。

犬を飼うことのメリットが強調され、また高齢者が以前よりも活動的になったことが骨折増加のベースにあると考えられます。高齢の方が犬の世話をする場合、身体能力や犬の行動特性、その犬の性格などをよく吟味することが必要です。

そして、その評価は第三者が頻繁に見直しを行うよう、周知徹底されなくてはなりません。見落としがちですが、散歩時の靴、犬のリードやハーネスなどの選択も、安全のための重要な要素です。

そして最も重要なのは、犬のことをよく理解した上で「その犬と飼い主のマッチングはふさわしいか?」を考えることです。 私が実際に聞いた例では「高齢の父親の運動のためにラブラドールを飼おうと思う。盲導犬になる犬だから、高齢者をサポートして散歩してくれるでしょう?」とおっしゃった方がいたというものです。

「とんでもない!」と驚くことは簡単ですが、犬に関する正しい情報を教えてくれるところが少なくて、何も知らなくても簡単に子犬が買える状況では、このような例は少なくないのだと思います。

老後の健康増進の散歩のためだと考え、元気一杯のヤンチャな子犬を購入して、犬も人も幸せになれない悲しい結末を防ぐためにも、犬についての正しい知識の周知徹底は不可欠です。

《参考》
https://pets.webmd.com/dogs/news/20190306/more-elderly-are-breaking-bones-while-dog-walking#2
https://jamanetwork.com/journals/jamasurgery/article-abstract/2727125

監修獣医師による補足

以下の内容も引用記事に書かれていました。

 骨折のリスクが少ない高齢者に適した運動は、骨を丈夫にしバランス力を向上させるレジスタンスエクササイズです。

 高齢者が犬の散歩をする時に最も大事なことは、適切な犬のトレーニングです。ほとんどの犬は、普通に歩けば人間より早く進むので、犬にゆっくり歩くことを教えなければいけません。小動物を見て興奮して追いかけたりしないようにもトレーニングしなければならないし、他の犬に異常に興奮する犬だったら散歩の時間帯も考えないといけません。

 飼い主の年齢にかかわらず、人間と犬のマッチングがとても重要です。犬を飼う前にプロのトレーナーに相談するのが良いでしょう。また、純血種では犬の性質について予測しやすいため、ブリーダーも人間と犬のマッチングを手助けできるでしょう。

 散歩に使う道具選びも重要です。リードについて言えば、伸びるリードは犬に引っ張ることへの報酬を与えてしまうので不適切です。またリードは高齢者の手でも握りやすいものである必要があります。首輪や胴輪は、その犬の体格や性質に適した物を選ぶ必要があります。

 犬を飼うことは、誰にでも出来るわけではありません。犬を飼わない、という選択をした方が良い人もいます。犬を飼いたいからと言って、必ずしもその人が犬を飼うことに向いているわけではないのです。

獣医師:木下 明紀子
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