人気の「生食」のメリットとリスク
加熱していない生の肉をベースにした犬の食事は「生食」「ローフードダイエット」「BARF」などの名で知られ、安定した人気を保っています。「犬の本来の食性に合っている」「栄養素が熱で壊れることなく、自然な形で消化吸収される」など、そのメリットも多く知られています。
けれども一方で、生の肉や魚を加熱しないで犬に与えることは細菌も摂取してしまうリスクもあります。犬や猫の胃酸は人間のものよりも強力なので、犬や猫は人間より食中毒になりにくいとよく言われますが、食中毒にならないわけではないですし、動物だけでなく一緒に住んでいる人間へのリスクもあります。
このような懸念について、犬用生肉フードとして販売されている製品の細菌の量を測定する研究が行われ、その結果が発表されました。
Hellgren, J., Hästö, LS., Wikström, C., Fernström, L., Hansson, I. Occurrence of Salmonella, Campylobacter, Clostridium and Enterobacteriaceae in raw meat-based diets for dogs. Veterinary Record. 2019, 184(14), 442-.
犬用生肉フードから、どのくらいの細菌が検出された?
研究を発表したのは、スウェーデン農業科学大学の研究チームです。研究チームは2017年3月から9月の間に、研究室から半径200km以内の範囲の小売店から購入した60パックの犬用生肉フードから、サンプルを採取し分析しました。
これらは犬用のフードとして販売されており、ビーフ、チキン、ラム、ターキー、ポーク、ダック、トナカイ、サーモンのいずれかに由来する未調理の肉、食べられる骨、内臓のうち1種類または複数種類を含んでいました。一部の製品には野菜、野菜由来の繊維、ミネラル類も含まれていました。
全ての製品はスウェーデン、ノルウェー、フィンランド、ドイツ、イギリスの業者10社の製品でした。分析結果は以下のようなものでした。
- 60のサンプル全てに腸内細菌科の細菌(感染症の原因とはならない種類の菌も含めて。しかし、そのような菌も原料の糞便汚染と製造設備の衛生基準の指標となる。)が見つかった
- 全体の52%に当たる31のサンプルでは1gあたり5000個の細菌というEUの規制する数値を超えるレベルの腸内細菌科の細菌が見つかった
- 腸内常在菌ではあるが食中毒なども引き起こすウェルシュ菌(Clostridium perfringens)は30%にあたる18サンプルに見つかり、うち2つはスウェーデンのガイドラインで設定されている上限を超えていた
- サルモネラ属菌は7%にあたる4つのサンプルから見つかった
- カンピロバクター属菌は5%にあたる3つのサンプルから見つかった
サルモネラ属菌とカンピロバクター属菌は、動物から人へ感染することができる人畜共通の細菌です。EUの基準では全ての動物飼料において、サルモネラ属菌が含まれてはならないとされています。
カンピロバクター属菌が見つかったのは3つのサンプルと比較的少ないですが、これはカンピロバクター属菌が冷凍に非常に弱いためだと研究者は述べています。製品が冷凍される前には、カンピロバクター属菌はより多くのサンプル中に存在していたと、またカンピロバクター属菌が見つかったサンプルには冷凍前には非常に多量の菌が存在していたと考えられると推測しています。
このように、生で食べることを前提としてパッケージされ、冷凍されて販売されている製品から、多くの細菌が見つかったことを研究者や獣医師協会は重く見ています。
愛犬に生食を与える場合に気をつけること
発表された研究結果からは、犬用生肉フードには健康上のリスクが潜在的にあることがわかります。研究者は感染症と薬剤耐性菌という2つの観点から、生肉フードの保管、取扱い、給餌方法などについて、次のような点に注意して慎重に行うことの重要性を強調しています。
- 生食用フードは使用時まで冷凍保存し、解凍は10℃で行う
- 他の食品とは別に保管する
- まな板、包丁などは専用のものを用意するか、使用後徹底的に洗浄する
- 徹底した衛生管理が不可欠。生肉フードから出た液体が周囲の食品や設備に飛び散ることもあるし、生肉フードを食べた犬が食事の直後に人間の顔や手を舐めて、病原性のある細菌や薬剤耐性を持つ細菌を人にうつすこともある
- 抗生物質耐性菌出現のリスクを高めるため、抗生物質での治療中の犬には生肉フードを与えない
- 感染リスクの高い乳児、高齢者、免疫不全の人がいる家庭では生肉フードを与えない
- 犬自身が感染リスクの高い個体である場合は生肉フードを与えない
そしてもちろん、生肉フードを扱った後には石鹸を使って手をよく洗うい、必要に応じて次亜塩素酸などを使用して食器などを殺菌することが重要です。
まとめ
スウェーデンの研究者によって発表された、犬の生肉フードが持つ細菌汚染のリスクについてご紹介しました。
犬に生肉を与えると、確かに多くの犬は大喜びしますし、実際に体調が良くなったという報告も数多く聞かれます。けれど、全ての犬にとっての完璧なフードが存在しないのと同様に、生食も全ての犬に合うわけではありません。そしてこの発表にあるように、生のものは当然ながら細菌汚染のリスクがありますので、慎重な取扱いが不可欠です。
もし愛犬に生肉フードを与えてみたいと考えていらっしゃるなら、まずは獣医師に相談して愛犬の体調に問題がないかどうかを確認しましょう。また犬用に製品化されていない食材で生肉フードを与える場合には、栄養素の不足が心配されるため、専門家の指導を仰ぐことをお勧めします。
《参考》
https://veterinaryrecord.bmj.com/content/early/2019/03/06/vr.105199
https://www.sciencedaily.com/releases/2019/03/190304195236.htm
ユーザーのコメント
50代以上 女性 匿名