犬の体重過多と寿命の関係を調査
人間であれ動物であれ、健康のために適正な体重を保つことは大切です。犬の場合も、体重過多や肥満が健康に悪い影響を与えることは誰もが認めるところです。けれども、具体的に目に見える数字を示されると、太り過ぎの悪影響を改めて思い知るものです。
ウォルサム研究所やイギリスのリバプール大学の研究者らが、約5万匹の犬のデータを解析して、太り過ぎと寿命の関係を調査し、その結果を発表しました。
さて、どのような結果が表れていたのでしょうか?
調査の対象となった犬のデータ
調査の対象となったのは、1994年から2015年の間の北米の900以上の動物病院で診察を受けた犬のデータ約5万匹分で、飼育頭数の多い12品種が選ばれました。
小型犬ではチワワ、ポメラニアン、ヨークシャーテリア、シーズー。
中型犬ではアメリカンコッカースパニエル、ビーグル、ダックスフンド(監修者注:ミニチュアとスタンダードの両方が含まれていると考えられます)、ボクサー、ピットブル。
大型犬ではジャーマンシェパード、ゴールデンレトリーバー、ラブラドールです。
データを使用した犬は、全て避妊去勢済みの一般家庭で飼われている家庭犬です。
カルテのデータに基づいて、それぞれの犬を「適正体重」「体重過多または肥満」に分類して、犬たちの生存期間が比較されました。
太っている犬ははっきりと寿命が短いという結果が
5万匹強の犬の寿命を比較した結果は、とてもはっきりしたものでした。
データから推定された2つのグループの平均寿命について、その差が一番小さかったのはオスのジャーマンシェパードで、適正体重の犬の平均生存期間に比べて、太り過ぎの場合の生存期間は、約5か月短いものでした(メスでは約6か月)。
差が一番大きかったのはオスのヨークシャーテリアで、適正体重に比べて太り過ぎの場合は、約2年6か月も平均の生存期間が短いという結果でした(メスでは約2年)。
他には、ゴールデンレトリーバーは約8か月、ラブラドールは約5か月、チワワは2.1年、シーズーは約7か月、ビーグルは2年、それぞれ太り過ぎの場合には生存期間が短くなっていました(全て雌雄ともに)。
他の犬種でも全て例外なく、太り過ぎの個体の平均生存期間は適正体重の場合に比べて短いものでした。更なる研究が必要ではあるが、今回調査された12犬種以外のどんな犬種においても、同じことが言えるだろう、と研究者らは言っています。
間違った愛情の示し方
この調査を行った研究者は、多くの飼い主が犬への愛情を示すのに、人間の食べ物を「少しだけ」与えたり、ねだられればいつも食べ物を与えたりすることについて警告を発しています。
また多くの飼い主は、自分の愛犬が適正体重を超えていることに気づいていないことが多く、太り過ぎが健康に与える影響を理解していない場合も多いと述べています。
同じ研究者の別の研究では、イギリスのペットの成犬の約65%が体重過多で、9%が肥満であるという結果が得られています。研究者は、若齢や成長期の犬に体重過多や肥満が増えていることを憂慮しています。
重すぎる体重は関節の痛みや炎症、呼吸困難、内臓疾患に繋がり、犬の生活の質を低下させます。愛情のつもりで与える食べ物が、犬を苦しめる結果になることを、心しておかなくてはなりませんね。
まとめ
イギリスの研究者が発表した、太り過ぎの犬は適正体重の犬よりも寿命が短いという調査の結果をご紹介しました。
研究者は、家庭犬を診察する獣医師に対して、今回の調査結果を飼い主への教育に使用することを推奨しています。
「食べ過ぎかな?」と思いながらも、愛犬のおねだりに負けてしまいそうなときには、この結果を思い出して、食べ物の代わりにボール遊びなどをしようと心に決めました。
大切な愛犬との時間を長くして、生活の質を高めるため、寿命を全うさせるためと思えば難しくないですね。
《参考》
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/jvim.15367
【研究内容についての補足】
健康と体重の関連について、人間においても犬においても様々なことが言われています。しかし犬においてのデータはこれまで、ラブラドールレトリーバーを2グループに分けて片方は自由にフードを食べさせて、もう片方はフードを制限して飼育した結果しか報告されていないそうです。
その研究でも、自由にフードを食べて体重が多くなったグループの平均寿命が短かった、という結果が得られています。今回の研究は、一般家庭で飼育されている犬から得られた、体重と寿命に関する初めてのデータです。
生年月日や死亡年月日などが飼い主の自己申告による情報で正確性に欠ける可能性があったり、安楽死によって死亡した犬も含まれていたり(安楽死の理由には、犬の体調に関連しないものもあります)と、結果の解釈に注意が必要な側面もありますが、北米全域からの5万頭以上ものペットの犬が調査対象であることから、今回の結果はペットの犬一般に当てはめることができるのはないか、と考えられています。
今回の研究からは体重過多/肥満と短い平均寿命の関係は分かりませんが、肥満の犬は命にかかわる病気にかかる可能性が高かったりその病気を悪化させたりすること、肥満そのものが生活の質を下げることがその理由として考えられています。
また、体重はカロリー収支を反映している点を考えると、クモや魚類、げっ歯類で報告されている栄養不足にならない程度にカロリー制限をすると寿命が延びることも興味深い報告です。いずれにせよ、適正体重の犬と体重過多/肥満の犬との間に平均寿命の差が見られる理由については、さらなる研究が必要だと研究者たちは述べています。