健康に問題を抱える短頭種の犬
姿形の可愛らしさを追求するあまりの行き過ぎた品種改良の結果、生まれつき健康上の問題を抱えて生まれてくる犬種があります。
その代表的な犬種が、短頭種のイングリッシュブルドッグやフレンチブルドッグ、ボストンテリアです。彼らの特徴はつぶれたような短い顔と幅の広い頭です。愛嬌があって可愛らしいのですが、この容姿は、ブルドッグたちに深刻な健康上のリスクを背負わせています。
平らになった頭蓋骨は酸素の流れを制限し、呼吸や心臓の障害が起きやすくなります。また、彼らのチャームポイントの一つである大きな飛び出した目は、怪我のリスクが高いものです。
そして、イングリッシュブルドッグ、フレンチブルドッグ、ボストンテリアに共通する特徴であるスクリューテールも、彼らの健康上の問題を表しています。
スクリューテールに関連する短頭種の健康問題
スクリューテールというのは、スクリュー=ねじのようにクルンと巻いた短い尻尾を指します。コロコロしたブルドッグのおしりに、くるんと巻いた尻尾はとても可愛らしいのですが、実はここにも健康問題が潜んでいます。
イングリッシュブルドッグ、フレンチブルドッグ、ボストンテリアはほとんどの個体が生まれつき脊髄が変形しています。この脊髄の変形が引き起こす結果が、独特な形のスクリューテールなのだそうです。
先ごろ、カリフォルニア大学デイビス校獣医学部の研究者が、スクリューテールを持つ犬たちの遺伝的な差異を詳しく調べるために、21犬種100匹の犬の完全なDNA配列を決定して比較しました。
犬はカリフォルニア大学デイビス獣医学病院に診察を受けに来た犬の中から募集されました。DNA配列を比較した21犬種には、短頭種ではあるがスクリューテールはめったに見られないパグやボクサー、そしてスクリューテールを持つイングリッシュブルドッグ、フレンチブルドッグ、ボストンテリアが含まれていました。
そして、この遺伝子解析の結果、意外なことが分かったのだそうです。
スクリューテールの犬と、人間のロビノウ症候群との共通点
研究チームは、DVL2として知られる遺伝子において、全てのイングリッシュブルドッグとフレンチブルドッグ、そしてほぼ全て(94%)のボストンテリアで特定の突然変異を発見しました。この特定の突然変異は、他の犬では見られないものでした。
研究チームによると、この突然変異は母犬の子宮内で胎児の犬が発育する過程で、細胞が互いに連絡し合うためのタンパク質を変化させるものだとしています。細胞間の連絡に起きた、何らかの変化が、スクリューテールの犬たちの脊髄の変形を説明できる可能性があります。
この発見だけでも大変興味深いものなのですが、ブルドッグたちに見られる健康上の問題や、骨格の変形は『ロビノウ症候群』と呼ばれる衰弱性の遺伝疾患に苦しむ人々の症状と非常に似ているのだそうです。
研究チームが発見したDVL2遺伝子の突然変異が、ルビノウ症候群を引き起こす人間のDVL1遺伝子と、DVL3遺伝子の突然変異と非常によく似ていることも発見されました。
短頭種の犬の健康問題と、ルビノウ症候群治療の糸口
ルビノウ症候群は非常に稀な疾患なのですが、この疾患を研究する科学者は特別に繁殖されたマウスを使用しています。
しかし、今回の研究でわかった結果から、スクリューテールを持つ犬の健康問題を改善する方法がルビノウ症候群の治療のモデルとなる可能性があります。人間の疾患の治療方法を探るために、病気のマウスやラットを作り出して研究するのではなく、同じ疾患や障害に苦しむ犬を治療しながら人間の治療法を探るという研究方法は、犠牲になる命を減らして救う命を増やすという面でも望ましいものですね。
スクリューテールの犬については、まだまだ明らかにするべき問題がたくさんあると研究者たちは述べていますが、長年の問題である短頭種の犬を健康的に繁殖飼育する方法の糸口が見つかったと言えそうです。
まとめ
イングリッシュブルドッグ、フレンチブルドッグ、ボストンテリアに見られるスクリューテールを作り出す脊髄の変形が、特定の遺伝子の突然変異に関連していること、その遺伝子突然変異は人間のルビノウ症候群という疾患に関連する遺伝子突然変異と非常によく似ていることが発見されたという研究をご紹介しました。
高度な研究の内容は一般の飼い主には無縁のものと思われがちですが、犬種特有の遺伝的な疾患や障害をなくしていくためには、一般の飼い主が関心を持つことは必要不可欠です。
犬種の持つ姿形の愛らしさだけでなく、そこに潜む問題にもしっかりと目を向けておきたいですね。
《参考》
https://journals.plos.org/plosgenetics/article?id=10.1371/journal.pgen.1007850